『ウォルトが遠い人になったみたいだよ』 ウォルトが敬愛する主君とそんな会話をしたのは数日前のこと。 今日は弓兵が必要ないということでウォルトは留守番組に入っていた。 いつもどおり出撃していたメンバーが戦いから帰還してくるのを迎え入れる。 各自大小の怪我を負っているものの、大きな被害を受けた様子はない。 帰りを待っていた者は傷の手当てを行ったり戦場の話を聞いたりと、野営地は一気に賑やかになっていた。 ウォルトもメンバーの労を労いつつ人で溢れた陣内を掻き分け目的の方向へ進んだ。 「ロイ様」 ウォルトは、心配していた主君の元気な姿を見てホット息を吐いた。 「あぁ、ウォルト」 ロイはウォルトの姿を認めると微笑んだ。 「ご無事で何よりです」 「ただいま」 それだけ言うと横に立っているアレンに視線を向けて何事か囁いた。 アレンはロイの言葉に頷いてからそうですね、と小さく言ってくるりと後ろを向いて歩き出し、ロイもそれを視線で追った。 「それじゃ、ウォルト」 ロイは振り返りもせずそう声を掛けるとアレンを追いかけてさっさと人込みに紛れた。 奇妙な違和感を感じた。 ロイは自分に対していつもどおり微笑んでくれたし、態度も別段おかしくない。 それなのに最近感じるこの違和感。 しばしその場で考えてからどうしてもその正体がわからなくて、ウォルトはくしゃりと髪を掻き上げた。 何かが変わった感覚。 本当は何も変わってないのかもしれない。周囲が気付くような変化ではないし、自分でも何が変わったのかと問われたら正確に答えられるものではない。ただ自分にとってはとても大きな変化のような気もする。 よくわからない。わかるのは自分の胸に生まれた小さな痛み。 けれどもその理由さえ、自分はまだ知らない。 避けられている、とはっきりわかったのはそれから数日。 顔を合わせばいつも通りに振舞うのに、けれどもなんとなく避けられているのは間違いなかった。 それは周りも変に思わないくらいに、普段のロイからは考えられないくらい巧妙だった。 どうにも心がざわついて、戦闘に影響が出ないうちにとランスに相談を持ちかけた。ランスはアレンと一緒にいたけれど、2人に打ちあけるのは恥、ずかしいという気があったし、アレンならば体当たりで本人に聞いて来い、と言われるような気もして取り敢えずランス一人に相談した。 「・・・・そう、なのか?」 ウォルトの言葉を聞いてもランスは首を傾げた。やはり気付いてはいなかったらしい。 「別に変だとは思わなかったな」 「確かに今日の出撃でも普通に声を掛けてくれましたけど・・」 でもなんか違う気がして、と言ってウォルトはため息を吐いた。 「違う?」 「えぇ、うまくは言えないんですけど」 言い澱むウォルトを見てランスも腕を組んで考え込む。 「心当たりはないか?ケンカしたとか」 「そんな!ケンカなんて恐れ多い」 互いに意見の相違があったとしても、ケンカなどというものができるような関係ではない。自分たちは主君と臣下でしかないのだから。 「・・・あるとすれば、ロイ様が腹を立てているだけです」 きっぱりと言うウォルトを見てランスは息を吐いた。 「別に怒ってはいないんじゃないか」 「だと良いですが・・」 「怒りを内に隠して普段どおりに振る舞いながら巧みに避けるなんて芸当は、いくらなんでもロイ様には無理だろう」 「ランス様もそういう言い方なさるんですね」 項垂れていたウォルトが顔を上げてわずかに苦笑した。 「だから、そんなに心配する事もないだろう」 「そうでしょうか?」 「あぁ。私からもそれとなく、ロイ様にお尋ねしてみよう」 ウォルトを励ますかのように言いながらランスはウォルトの頭にぽんと手を置いた。その手は優しくウォルトの髪を混ぜ返す。 「ウォルト。ロイ様だって忙しいのだし、軍のメンバーがこう増えては一人一人いちいち構ってなどいられないのだ」 「そう・・・ですよね」 「だからお前がそれを気にする事なんてない」 ランスの言葉にはいと頷きながらも、ウォルトの表情はどこか不満げだ。 「そんな事はわかっているのに、少し寂しいんです。まるでロイ様が・・・」 離れていくがして、と言いかけてウォルトははっと息を呑んだ。 『ウォルトが遠い人になったみたいだよ』 以前にロイの言った言葉が唐突に頭の中に響いた。 すっかり忘れていたが、あの時のロイの様子は少しおかしかった。 あの時ロイが感じていたのはもしかしたらこんな気分だったのかもしれない。 それなのに、あの時自分はなんと答えたか。 「そ・・・か」 呟いてウォルトはそのまま固まってしまった。 ランスが心配そうに覗き込んだが何も言う気にはなれなかった。 「すみません、ランス様」 しばらくして小さく声が出た。 「やっぱりロイ様に聞いて頂かなくても結構です。私が悪かったのです」 えっ、とランスが聞き返す間にウォルトは駆け出してしまっていた。 ようやく辿り着いた部屋。 大した距離ではないのに、ひどく遠かったような気がした。 「ロイ様」 別段急ぐ用事ではないが自然とノックが荒くなる。 「ウォルト。どうした、敵襲か!?」 「いえ・・・お話が、ありまして」 ロイはいきなり息も荒く駆け込んできたウォルトを見てわずかに躊躇うような表情をしたが、ゆっくりとドアを開いて部屋に招き入れた。 「あの、先日のことですが」 「先日?」 「けじめの話です」 ロイは一瞬考えてからあぁと返事をした。 「あの、最近ロイ様僕の事避けてましたよね」 「え、あぁ・・・」 決まり悪そうな表情をして視線をウォルトから外す。 「もしかして、僕がその報復に避けてたって思ってるの?」 「報復って言うか、怒ってるんですよね」 ウォルトの言葉にロイは大きくため息をついた。 「僕が避けていたのはそういうのわけではないよ。怒ってるわけでも、ウォルトが嫌いになったわけでもない」 「はぁ。では何故?」 ウォルトは訳がわからないと言う顔をした。 ロイはすぐには答えずにウォルトから離れた窓のほうへ歩いていく。 「ウォルトに臣下でしかないって言われたから」 えぇと、とウォルトはますます複雑な顔をした。 に言い方は微妙に違うが確かそうと取られても仕方ない発言だったかと思い返す。 「すみません。僕の言い方が悪くて。そういうつもりではなかったのです」 「うん、ウォルトは悪くない」 思いの外あっさりと許されてウォルトは拍子抜けしそうになった。 「では今までどおりにして頂けますか。その・・・都合が良い事言っているとは思うのですが」 「それは・・できない」 「えっ!」 どうして、とウォルトは思わず大きな声を出してしまったが、ロイの表情が翳っているのに気がついて慌てて口元を押さえた。 「ウォルトが好きなんだ」 ロイは小さく、呻くように声を出した。 「僕だって好きです」 反射的にウォルトはそう応えた。 「でもそれは、僕の好きと違う」 恋愛感情だ、と。 告げられた言葉にウォルトの思考はすぐに対処できなかった。 「辛いんだ。だから今まで通りではいられない」 ロイは静かに言った。 あれからどこを道歩いて部屋に戻ってきたのかよく覚えていない。 あまりに呆け切ったウォルトをロイは半ば追い出すように無理やり部屋から出したのだが、ウォルトはその間言葉1つ出せなかった。 まさに晴天の霹靂というか。 主君が自分を慕っていてくれる事は嬉しくも誇りに思っていたが、まさかあんなふうに言われるとは思っていなかった。 ロイがウォルトをからかっているとは思えないし、何よりあの時のロイの表情が頭に焼き付いて離れない。真剣な眼差しは彼の本気を表わしていた。 『ウォルトが遠い人になったみたいだよ』 本当に遠い人になってしまった気がした。 あの時はまだ笑い合えていたのに。 自分は、どうしていいのかわからない。 何かが変わった。 それは紛れもない事実。 ロイ→ウォルト(?) 支援会話からできた話です。
なんでしょうこれは〜。楽しくない〜。 始めは甘かったんですけど、ロイ側視点で書いたらあまりに乙女になったので、ウォルト側に移行しました。 どうもその際甘さまでをおいてきたようです。ウォルトが別人。 全2話予定。次回こそCP話にしたいと思います。 ところでこの2人。巷ではどちらが攻なんでしょう? |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||