幻こすちゅうむ 






「何だ、コレ」
その物体を見て最初の一言はそれだった。



その見慣れぬ形状の物質は綺麗な赤色をしていた。
それを持ってきた人物―シオンは目を輝かせて明らかに上機嫌な風だった。
慣れない生活にも拘らず、たくましく生きている彼女の事をJr.は好ましく思っている。
だが、それと同時に計り知れないところを持つ人物であると感じてもいる。
それはまぁ、敵意や悪意といったものではないのは確かなのだけれど。

「うちの社にミユキってゆー子がいるんだけど、その子、色々な武器なんかを開発してるの。ほら、私が使ってるM.W.Sもその子が作ってくれたんだけど」
「へぇー」

Jr.は戦闘時にシオンの扱う武器を思い出す。
自称非戦闘員であるシオンが勇ましく扱うその武器の機能性はJr.も日頃から感心していた。

「で、それがシオンの新しい武器ってわけか?」
「ううん。モモちゃんが幻の百式用スーツを手に入れたでしょ。私あれに感動しちゃって」

そう、先日モモはすごいものを入手してしまった。
お試しとばかりに雑魚敵相手にエーテルを発動させたモモの姿に、皆(除コスモス)は唖然としてしまったのだが、シオンだけはやけに目を輝かせていた。
Jr.としては考えるのもおぞましい品だが、シオンにとっては感動の一品だったらしい。

「それで私もちょっと考えちゃって、それをミユキに話してみたらね。なんと! これをテスト品として送って来てくれたのよ」

シオンはそういうと、物体をJr.の目の前に差し出した。

「だからこれはね、Jr.君へのプレゼント」
「えっ?」
「はい、どうぞv」

どうぞ、と言われても、突然の事にJr.は戸惑う。
嬉しそうに言うシオンにJr.は本能的に危機を感じ取り、出しかけた手を後ろでで結んだ。
第一シオン個人からならともかく、ベクターからプレゼントを受け取るいわれはない。

「何で、俺に・・・?」
「Jr.君だけじゃないわよ」

シオンの視線の先に目をやれば、隅のベンチにはジギーが腰掛けていた。

「ジギーさんだってちゃんと受け取ってくれたんだし、気にしないで」

シオンのセリフを聞きながらも、Jr.の視線はベンチのジギーに固定されていた。
いつもは毅然としているジギーが、Jr.にはどことなく疲れて見えるのは気のせいだろうか。

「やっぱり人造人間っていったらあれよねー」

シオンもベンチの方に目をやると訳のわからぬ言葉を吐いた。

「とにかく。Jr.君も絶対受け取ってね」

Jr.へと向き直ると、無理矢理にその手を取り、物体を押し込んだ。
油断していたJr.はつい無抵抗に物体を掴まされていた。

「じゃ、私は次があるから〜」

返す隙もなく、あっという間にシオンは笑顔で去っていった。

「コレを、どうしろって・・・」

物体からは言いようもなく嫌な感触を覚えた。
すぐにでも捨てたい衝動に駆られたが、シオンからもらった手前それもできない。

仕方なく、手の中の物を見つめながら佇むJr.の元に重い足音が近づいて来た。

「使い方は簡単だ。掲げて、そこに記してあるスペルを読誦すればいい」

親切に教えてくれるジギーはしかし顔色が優れない。

「大丈夫か?なんか具合悪そうだけど」
「そうか。・・・そうかもな」

サイボーグであるはずの彼がそんな簡単に体調を崩すとは思えないのだが、目の前のジギーの生気は確かに弱々しく思える。

「Jr. もしも試すなら、部屋で一人で行なった方がいい」

年寄りの助言だ、と言うジギーからは言い知れぬ哀愁が漂っていて、Jr.は素直に頷いたのだった。




+++



「―で、なんでお前がここに居んだ?」

確実に一人になれると思った自室にはガイナンが訪れており、Jr.は唇を尖らせた。

「なんでって、お前からSOSの念波が届いたから飛んできたんだ」
「ンなもん、送ってねーよ」

Jr.は不機嫌そうに言ってみたが、危機信号を発してしまったかもしれない事は否めず、それ以上の悪態は慎んでベッドの端に腰掛けた。
そっと手を広げて、先ほどの物体を見つめる。

「なんだ、それは?」

ガイナンもそれに気付くと興味を示した。

「シオンに貰ったんだ」
「シオンに?」
「あぁ。けど、なんとなく、悪い予感がする」

厳しい表情でそういうJr.をガイナンは不思議そうに見た。

「何に使うんだ?」
「それが、よくわからない。一人で試せってジギーは言ってたが、今はお前が居るしな」

Jr.の発言にガイナンは不満そうに顔を顰めた。

「俺の事は気にするな。お前と俺の仲だろう」
「バカ言うな。んな訳にはいかねーよ」
「万が一、危ないものだったらどうする。嫌な予感がするんだろう?」

そう言うとガイナンは深く椅子に腰掛け、それが何か知るまでは帰らないといった様子を見せた。
ったく、仕方ないな、とJr.は息をついて立ち上がった。

「ええと、コレを掲げて」

スペルを読み上げると、途端に物体から光があふれ出てきてJr.の体中に纏わりついた。

「なんだ、これっ」
「Jr.!!」

光は大きくなりJr.の姿さえ見えなくなった。
そして、瞬間的にぱぁっと弾け飛んだ。

「大丈夫かっ!」

ガイナンは声を上げたが、Jr.は何事もなくそこに居た。
否、何事もなくと言うのは間違いだ。

「Jr.・・・?」

ガイナンはそれきり絶句し、Jr.は声すら出せずに固まっていた。


風もないのに胸元ではためく真っ赤なリボン。
古代の本で見たことがある。
セーラー服というヤツだ。
だが、確かそれは水平達の船服ではなかったか。
どういうわけかJr.の下半身は激ミニのヒラヒラのスカートが装着されている。
そこから伸びる足にこれ見よがしに着けられたガーターベルトには、Jr.愛用の銃がしっかりと挟み込まれていた。
なんというか、恥ずかしい姿であることだけは間違いない。


「扇情的、だな」

ぼそりと呟かれたガイナンのセリフにJr.は我に返り、途端に耳まで朱色に染めた。

「シ、シオンー!!」

怒りと共にJr.の発した叫び声はデュランダルの廊下中に響き渡った。




+++




翌日。

「ごめん、Jr.君に渡したのはちょっとした手違いがあったみたいで」

そう言って謝るシオンの手には昨日のモノとよく似た別の物体が握られていた。

「はい、コッチが本物のJr.君のぶん」

恨みがましく睨みつけてみたが、シオンは怯みもせず新しい物体を手の中に握らせた。

「もしかして・・・もう、使っちゃった、よね」

昨日の絶叫を聞いたのだろうか。
シオンは少し声を小さくして遠慮がちに尋ねた。

「あぁ」

無愛想に答えると、シオンは軽くウィンクした。

「今度は、大丈夫な筈だから」

大丈夫ってなにがだ、とか、手違いってなんだ、とか突っ込みたい事は山ほどあったが、Jr.は取り敢えず大人しくシオンが去っていく後姿を見送った。
些細な疑問よりも、関わらないのが一番だと、身の保身を大事にした。
昨日から、嫌な予感はしていたのだ。それでも試してしまった自分が憎い。
しばらくガイナンにからかわれる事を考えると、Jr.は頭痛を禁じえないのだった。



渡された物体をポケットへと押し込み、たとえ大丈夫だろうとなんだろうと、もう二度と使わない事をJr.はしっかりと心に決めた。








うちのシオンさんは素でイっちゃってます。 モモの変身に唖然とした私が乗り移ってますよ。
ちなみにジギーに渡したのはセーラーではないですよ、流石に。
さぁ、次の被害者は誰だ (爆)





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