自覚 






ファウンデーションのシンボルタワーであるデュランダル。
その摩天楼の一角をガイナンは歩いていた。
目を瞑ってでも辿り着けるであろう通いなれた道を早足で進む。
だが目的の扉の前には見慣れぬ人物が蹲っていた。
桃色の髪を持つ、百式汎観測レアリアン。
確か、M.O.M.O.と言っただろうか。
Jr.がこの存在を妙に気にかけていた事を思い出しガイナンは片眉を上げた。
なんだってこんなところに居るのだろうか。

「入らないのか?」

音もなく扉の前まで進むと、モモは顔を上げガイナンを見上げた。

「えっ・・・はい。シェリィさんが今はお昼寝中じゃないかって」

そう言って立ち上がるとモモは扉の正面から身を引いた。
いい年してお昼寝って事はないだろうと思いつつも、このところの状況を思い出し、ガイナンも中へ入るのを躊躇う。
Jr.は最近よく眠れていないようだった。ブリッジではぼんやりとしている姿が目立つ、とガイナンもシェリィやメリィから聞いていた。おそらく今は彼女達に無理矢理仮眠を取るように言われたのだろう。
不眠の原因は分かっているがどうしてやる事もできないでいる。
ガイナンにも、そしておそらくこの少女にも。
立ち上がってもなお下方に位置する少女の姿を見下ろした。背丈はおおよそJr.と同じくらいだ。ピンク色の毛先が揺れるのを見つめながらガイナンはポツリと呟いた。

「U.R.T.V.と百式、か」

ガイナンの低い声にモモははっとしたように顔を上げた。

「・・・どういう意味ですか?」
「・・・いや」

嫌な感じを覚えてモモはしっかりと目の前の男を観察した。
黒い髪。無意識に固体のデータを観測する。
ガイナン・クーカイ。
よくできた男だという噂で、実際モモも知り合ってから今までの僅かの期間で好印象を持っている。
けれど、この声はどうしても嫌な記憶を思い起こさせた。
観測用という特性上、別人である事は誰よりも確実に知っているのに。
自然と身が強張り、表情も硬くなった。

「俺が苦手か?」

ガイナンの問いに瞳を閉じてふるふると首を振った。


「すまない」
「平気・・・です」

失礼な態度を取っているのはモモの方なのだから、謝らねばならないのは寧ろ自分だ。
(Jr.さん・・・)
扉の向こうに居るはずの存在を何故か遠くに感じる。

「だが、Jr.も同じだ」

冷たい響きにモモの体がぴくりと震えた。
違うと、分かっているのに体の震えが止まらなかった。
同じバケモノだと以前Jr.も言っていたのをモモは思い出した。その時は、現実感が伴わないただの言葉だった。
Jr.はJr.であって、過去など関係ないと思っていた。
だが、今のガイナンの言葉には突き放されたような感覚を覚える。

「だから、分からないというのですか」

―彼のイタミを。

挑むような気持ちで深緑の瞳を見つめれば、ガイナンの瞳が放つ光が僅かに柔らんだ。

「いや、自覚は大事だという事だ。互いにな」

告げられた言葉の意味をゆっくりと考えてからもう一度ガイナンを見上げれば、彼は既にモモに背を向けていた。

「あのっ・・・あなたは・・・?」
「起きたら、また来るさ」

振り返ることなく、後姿がそう言った。




(自覚・・・か)

ガイナンはデュランダルのエリアトレインへ乗り込むと静かに息をついた。
自覚は、ある。
自分はあの少女のように密やかに彼の安息を祈れたりはしない。
彼の生にもっと深く関わりたいのだ。
彼の枷にはなりたくないと思いつつも、同じくらい彼にとって意味ある存在でありたいと願う。
自分といる事で彼が思い出すのは幸せな記憶ではないと知りながら、それでも尚。
浅ましい願望。
こんな部分に、別個体でありながら、ガイナンもまた白髪の彼と同質のものを感じて苦笑を浮かべた。

だから・・・

さっきの言葉の意味を、少女はおそらく理解しただろう。
ガイナンは軽く瞳を閉じた。






歪んだ感情は、誰の内部にも潜むもので。
ただ、自覚するか、しないかなのだと。









どういうわけかガイナン&モモ。
接点がなさすぎなのでどんな風に会話するのか全く不明です〜。
あぁ、大変。ちびさま寝っぱなしで全然出てきとらんっ。





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