クーカイ・ファウンデーション理事であるガイナン・クーカイの一日は実に多忙である。
特にここ数日はいつになく仕事が立て込んでいた。
本日も朝から働き通しの上、やっと自由になれたのは最早日付も変わらんとする時刻の事であった。
シュンと無機質な音を立てて開いたドアから身を滑らせ、ガイナンは自室へと足を踏み入れた。殺風景な部屋を見回し、小柄な人影を認めてソファの上で視線を止める。
あまりにも、見知った顔。
彼もまた多忙な一日を送ったのだろう。ソファの上のJr.は静かに寝息を立てている。
ガイナンは近づいて横たわるJr.の隣に腰をかけた。
中身は大人でも外見は違うのだから、体にかかる負担は自分よりずっと大きいのであろう。
軽くゆすって起きる様子がないのを見ると、その無防備な寝顔をじっと覗き込んだ。
こんな風にじっとJr.を見るのは久しぶりな気がして、ガイナンはそっと手を伸ばして赤い髪に触れた。
軽く髪をかき混ぜて、指の間を柔らかなそれが滑っていくのが楽しくてくるくると絡めた。
「ん・・・・」
指の感触に気付いてJr.は薄っすらと瞳を開いた。
「あ・・・ガイナン」
まだ眠そうな表情で呟くと、Jr.は気だるげに身を起こした。
「待たせたか?」
「あぁ・・・いや。・・・何の用事で来たんだっけ?」
約束していたわけでもないからガイナンのほうには特に思い当たる用事もない。Jr.は思い出そうと眉を顰めてぐしゃぐしゃと髪を掻き上げた。
「忘れたのか?」
「るさい」
その様子が可愛らしくてガイナンは思わず笑みを漏らしたが、
Jr.にはそれが気に入らなかったらしい。
すっくと立ち上がり、今日は帰ると言い放った。
だが向けられた背中を黙って見送る気にはなれず、ガイナンは殆ど無意識のうちに腕を掴んでいた。
「いい、ここにいろ」
いつになく語気が強いガイナンの声に、振り返ったJr.は僅かに顔を顰めた。
「どうしたんだ?」
掴んだ腕を強く引けば自然とソファに座るガイナンの懐へと倒れこむ形となり、そのまま強く抱きこんだ。
「・・・ガイナン?」
Jr.は不審そうに見上げた。
「疲れてんのか?」
「どうだろうな。最近の仕事の量には驚かされるものだが」
大きくため息をつくとJr.は心配そうに見上げてきた。
小さな手が頬に触れ、それから指で軽く目の下をなぞった。
「最近寝てないだろ。今日はもうさっさと寝ろよ」
「そうだな」
「言ってることとやってる事が違うだろ」
抱き締める腕に力を込めると、年上のいう事は聞くもんだとJrが喚いた。
「チャージが必要なものでな」
「だから!ちゃんと睡眠を補給しろって。早く離して寝ろよ」
ガイナンは腕から逃れようともがくJr.を押さえつけるとその首筋に顔を埋めた。
確かに体は疲れているから、眠りたくないわけではない。
寧ろ、眠りたい。けれど・・・。
「その前に、オマエが足りない」
耳元で囁くように告げればJr.が絶句した。
「・・・わかった。仕方ないから、一緒に寝てやるよ」
それで両方足りるだろ、と。
吐き出されたあきらめたような声とともに、ガイナンはようやく手を離して自らのタイに手を掛けた。
ガイナンがこんな風に甘える姿は、ごく稀に、だが確実に自分だけに向けられるものだと、Jrは知っているだろうか。
あや、チャージってコマンドゼノサガにはないのに。
ガイナンにとってのJrの存在、というのを書こうとした筈なのにあまり語れてません。短いし〜。
ただの甘えたガイナン様。