待ち合わせの場所に目当ての人物の姿を認めて、目的のテーブルまで歩み寄ったアスランはぴくりと動きを止めた。 目の前にはピンクの髪、見慣れた衣装の婚約者。 とまあ、ここまではいい。 問題はその手に見えるポップなイラストの本。 『あなたのココロを知りたい』などとでかでかと書いてあるその表紙にはご丁寧にハートマークが飛び交っている。 「ラクス・・一体何処でそんな本を・・・・」 「あら、アスラン。こんにちは」 挨拶も忘れて固まっていたアスランにラスクはふわりと微笑んで読みかけの本を閉じた。 アスランも溜息を一つ吐くと向かいの席に腰を掛ける。 「・・・面白いですか?」 「えぇ、まぁ。時間を潰すにはなかなかよろしいですわよ」 早く着き過ぎたんですもの、とラスクは言った。 そういえばアスランが到着した時刻は約束より少し遅れている。 互いに忙しい二人にとってはこれくらいのずれはいつもの事だが、待たせてしまった事を律儀に謝まるとアスランはちらりとその本に目を遣った。ラクスが読むにはやはり違和感がある本だ。 「気になりますの?」 「いえ、そういうわけじゃ・・・」 「頂き物ですけれど、面白い質問もありますのよ。アスランもやってみます?」 ラスクは微笑んで閉じた本を取り上げるとパラパラと捲った。 「これはどうかしら。あなたは仕事の都合でどうしても恋人との待ち合わせに行けなくなりました。その日は二人にとって大切な大切な記念日。さて、どうします?」 「・・・謝って、後日埋め合わせをします」 まるで模範解答のようですわね、とラクスは一人ごちるとまたページを捲った。 「昔の恋人があの日の約束を果たしに来たと言ってあなたの前に 現れました。さて、どうしますか?」 「生憎そんな約束はありません」 「なるほど。では次は・・・」 ラクスは指を折りながらいくつかの質問を出してはページを捲っていった。 「・・・でましたわ。アスランの判定はAタイプ:マジメな彼には浮気の心配はなさそう。少し肩の力を抜いてお付き合いすると良いみたい、ですわ。アスランは本当にマジメなのですわね」 ラクスの言葉にアスランは苦笑で応えるしかなかった。 「人によって答えも様々でしょうから、こんなもので人の心なんて計れませんけれど」 「そうですね」 ラクスは本を閉じるとテーブルの上の紅茶を啜った。 「私からも一つ質問していいですか?」 「えぇ」 「ラクスは大切な人を裏切らねばならなくなったら、どうしますか?」 唐突なアスランの問にラクスは神妙な顔つきになった。 「・・・難しいですわね。今の私は誰も裏切るつもりはありませんけれど、もしあなたとお父様の行く道が違ったら、わたくしはどちらかを選ばなければいけないのでしょう。それは大切じゃなくなる、という事ではありませんけれど」 そうなった時はしかたありませんわね、とラスクは静かに言った。 ラクスの父とアスランの父との関係は微妙である。単なる例え話というよりは現実的だ話だ。 「もし・・・」 そうなったら、聞くまでもなく彼女は父親を選ぶのだろう。 もともと親同士の決めた婚約なのだから。 そうして彼女も。―誰も、自分を選ばない。 「・・・アスラン?」 「いえ、何でもありません」 ラクスの事は大切だった。 しかしアスランとて、何かと引き替えに彼女を選べるかと言えばそれは分からない。 好きだと、大切なのは確かだ。 けれど、これが恋情なのかと問われれば否と答えてしまうだろう。ラクスの本当の心が計りたいとは思わない。 手先はとにかく、こと人間関係においてアスランは器用な方ではない。 アスランが今どうしてもココロが知りたい相手は、ただ一人だった。 「・・・キラ様なら、なんて答えるのでしょうね」 不意にラクスの口から出た意外な名に、アスランはがばりと顔を上げた。 「・・・キラが、気になりますか?」 「ふふ。アスランが、気になるのでしょう?」 ラクスはそう言ってふわりと笑った。 ラクスが何故その名を口にしたのか、その言葉の真意は何なのか、アスランには分からない。 友のために自分を裏切った、ナチュラルと共に戦う友。 「あいつは、俺を選びませんよ」 「あら、そういうお話だったかしら」 「えっ・・・!?」 くすくすと笑うラクスのに、アスランは思わず頬を染めた。 確かに、話の論点がずれてきている。からかうようなラクスの視線に対して慌ててフォローしようとしたが、ラクスはすぐに真摯な瞳でアスランを見つめた。 「アスラン。わたくし、あなたが好きですわ」 「私も・・・ラクスは好きです」 告白はカケラの熱情も含んではいないが、交わす言葉もまた真実だ。 こういう風に穏やかな穏やかな愛情もあるのだと教えてくれる、優しい人。 「アスラン。たとえ道が違う事になっても、わたくしはあなたの事、きっとずっと大切ですわ」 ラクスの言わんとすることが何となく分かった。 きっとアスランの質問の意図に気付かれてしまったのだろう。 見た目よりずっと聡いひとだから。 そして、彼女なりに励ましてくれたのであろう。 「・・・ありがとうございます」 選べる選択肢は一つ。けれども、人の心は簡単に割り切れるものではない。 「ラクスのおかげで、少し分かった気がします」 ほんの少しだけ、ココロが和らいだ。 ―彼は、自分を選ばないけれど。 アスラクのようなラクアスのようなキラアスのような話。 意味不明な上につまらないので書いてからしばらく封印してましたが、更新が滞っているのであげる事に(苦)。ラクスとの時間がアスランにとって寛げる時間であるようにとの願いを込めて命の洗濯と選択をかけて・・・・見事に玉砕気味。 今、キララク&カガアスの皮を被ったキラアス&カガラク小説のネタがあるんですが、書いても需要はなさそう。純粋にキラアスを書いちゃえよ!って感じでしょうか・・・皆さま。 |
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