「キラ、今日は騒がしくしてしまってすまない」 しばらくして部屋へ戻ってきたアスランはすぐさまそう言った。しかし、あの連中に言われるのならまだしも、アスランが謝るなんてキラにはかえって気に入らない。 「アスランが謝る事はないよ」 「でもキラはゆっくりしたかったみたいだし」 アスランは細く息を吐くと二人がけのソファにゆっくりと腰掛けた。 キラは確かにゆっくりしたかった。何しろ今日は同棲後はじめての休日なのである。これを有意義に過ごさなくてどうするという感じなので、キラはアスランの隣に腰掛けた。 ようやく朝から待ち望んだ二人きりの時間の到来である。 「ふぅ、それにしても家まで押しかけてくるとはな」 「・・・すまない。軍で聞かれて色々話してしまったんだ。彼らも自宅と寮以外は知らないから興味が沸いたんだろう」 「興味ねぇ」 この場合彼らの興味は一人暮らし(実際は二人なのだが)の実態というよりも、アスランのアパート生活だという事を目の前の恋人は気付いてはいないのだろう。他人の家だというのに連中は事あるごとに喧嘩したりと騒がしくするものだから、我関せずという顔をして見ていたアスランでもさすがに疲れたのだろう。 キラもイザークには事あるごとに突っかかられてすっかり疲れてしまっている。 「イザーク達は・・・」 「・・・もう、その話はいいから」 さらに言い募ろうとするアスランの言葉を遮ってキラがゆっくりとアスランの背をソファに押し付けた。 いい加減彼らの事は頭から離して二人きりの時間を楽しみたいのだ。 キラがゆっくりと体重を掛け、そのまま二人の唇が重なる寸前。 プルルルル・・・・ 早速の通信音が二人のコミュニケーションを妨げ、キラはちっと舌打ちしたが大人しく体を退けた。 「・・・はい」 アスランは立ち上がるとテーブルの上の端末で通信に応じた。 「隊長」 電話の主はアスランの上司ラウ・ル・クルーゼのようだ。クルーゼには戦時中色々と苦労させられたが、ようやく戦争が終わった今でも相変わらずキラにとっては障害となる人物である。大人しくフラガとでも乳繰り合っていれば良いものをアスランに色々と手を出してくるのだ。 「・・・いえ、大丈夫です」 会話の内容までは分からないが重要な用事などではないだろう。律儀なアスランの返事にキラはイライラとテーブルを指で叩いた。 「はい、了解しました。それでは明日」 短いようで長い通信を終えアスランが再びソファへと戻ってきた。迎えるように手を広げるとアスランも素直にその腕の中へと身を預けてきた。 ソファに腰掛けことりとキラの肩へと頭を乗せる。 そんな幸せなひとときを楽しみかけた二人の間に甘い空気が流れはじめた時。 プルルルルル・・・。 よくもここまで間髪いれずにくるもんだと呆れてキラは小さく息を吐いた。 もはや呆れて怒る気も失せてくる。 「はい。・・・えっ!!」 通信を受けたアスランは珍しく驚いたように叫び、キラも顔を上げた。 「ち、父上!?」 どうやら今度の電話の相手はパトリック・ザラ。 アスランとの親子関係は通常よりはずっと冷えたものでこまめに電話をしてくるような事はない。 「えぇ、元気です。はい、変わりも・・・特にはありません」 短いながらも緊張する通信が終わると、アスランはほうっと溜息をつきながらキラの方へやって来た。 「今日は皆どうしたんだろうな」 通信の多さにアスランも呆れていた。同僚からの通信はいつもの事だが、こう続けざまに来る事は滅多にないし、まして父親からの通信なんて本当に珍しい。 「お父さんが何の用?」 「元気かって・・・、特に用事はないようだけど」 特にこれといった用があるわけでもなかった事がアスランにはちょっとひっかかったが、何か思案する様にキラが溜息を吐いてアスランを後ろから抱きしめた。 腕に力を入れてぎゅっと包み込んだその時、再びプルルルルと無機質な通信音が鳴り響いた。 アスランが立ち上がろうとキラの腕をほどきかけたその時。 パリリリィィ−ン 鳴り響くと思われた通信音は唐突に断ち消え、アスランは何処かで何かが壊れるような効果音が聞こえた気がした。 気付けばいつの間にかキラが立っていて、何かを手にしている。 よくよく注意をしてみると何かの部品のようだった。それが通信機の一部であると気が付いたアスランは目を丸くしてキラを見つめた。 「キラ・・・?」 返事はなく虚ろなキラの瞳がすっとアスランを見つめる。 「ええと・・・」 じっくりとキラの瞳を覗き込んでアスランは固まった。キラの目はまともに焦点を結んでいない。 ふと、アークエンジェル乗組員からキラが戦争中しばしば異常な状態になるのだと聞いた事を思い出した。 敵対していた時にアスランも遭遇はしていたのだが、何せ戦闘中はお互いコックピットの中。こうして実際にお目にかかるのは始めてで、アスランは思わず唾を飲み込んだ。 「アスラン、気付いてる?」 キラがすっとアスランの元に近づいてゆっくりと言葉を発した。吐き出されたキラの声はつい先程までに比べて少し低い気がしてアスランはどきりとした。 「ここに越してきてから毎日一緒だけど」 「あぁ」 「僕ら満足に触れてもいないよね?」 「そう、だったか?」 「そう、だよ」 キラは語気を強めて言った。 「一週間も一緒にいるのに」 キラの言葉にそうだったろうか、とアスランは真剣に考えた。アスランだって本気で覚えてないわけではないのだが、一緒に居られる事だけで幸せすぎてそんな事など気にしたりもしなかったのだ。 「もう一週間か。なんだか慌しかったしな」 「そう。もう毎日忙しくて、僕らは満足に話もできないくらいにあわただしかったね」 薄い笑みを浮かべながらもすっかり目の据わっているキラをちょっぴり気にしつつアスランは頷いた。 「でもそんな事はいいんだ。一緒に住まなければそれこそただ会えない日が続いていただけだと思えば本当に幸せな事だよ。毎日例えほんのちょっとでもアスランを見れて満足だし。だから、キスしたいとか独り占めしたいとかそんな僕の我儘がいつでも叶うわけじゃない事くらい仕方ないって思うんだ」 「あ・・・あぁ、悪かった」 「別に怒っているわけじゃなんだし」 本当だろうか、とアスランは心中で突っ込んでいたのだが、言葉には出さなかった。 「ただ、ちゃんとその分の埋め合わせはしてもらわないとね」 言われた事の意味をすぐには測りかねたアスランが気付いたときにはしっかりと手首を捕まれていた。キラの瞳は暗く深く、目の前のアスランさえをも映してはいない。 アスランは息を呑んだ。 「キラ、今度の休みは一日二人で過ごそう」 アスランは精一杯微笑んで言った。 「誰にも邪魔されないように、通信も、インターフォンも全部切って」 常ならばその笑みに荒みかけたキラの心も動かされそうなキレイな微笑みだったのだが、生憎今キラの種は割れている状態である。 「独り占め、か」 キラはくすりと不敵な笑いを浮かべた。 「今度の休みだなんていわなくても、これから独り占めさせてよ」 キラの手がそっとアスランの頬に触れ、ざわりとアスランの心が波立った。 「キラ、あの・・・今日のキラはちょっと・・・」 「今日のって?今日の僕と明日の僕は違うとでも?」 そういう無意味に強気なところが既に普段のキラではないと言いたい所だ。 「アスラン。今日は大人しく抱かれてもらうよ」 アスランの体からさっと血の気が引いた。 (キラの事は大好きだ。けれど・・・) アスランの葛藤とは裏腹に、強気のキラはぎゅっとアスランを引き寄せると強引に唇を合わせた。始めから強引なキス。 (だ、だから、キスもこんなんじゃなくてもっとこう・・・受身っていうか、逆に俺のが迫ってるようなイキオイだし・・・) そりゃあ致す事はきっちりしっかりなキラだけれども、こういった事ではアスランに対してどこか遠慮がちな所があるのだ、いつもは。 だからもっと「いい?」とか控えめに聞いてきて、それが何か愛しくてOKしてしまうのだ。こんなはりきりボーイなキラはどうしていいかわからない。 「キ、キラ・・・わかったから、まずは風呂に入ったりとかいろいろあるだろう」 既に脱がせにかかっているキラの悪戯な手を牽制しながらアスランが言った。 「わかったよ。じゃ一緒に入ろう」 (一緒!?) 「いや、だから風呂とかそういうのは一人でゆっくりと・・・」 「アスラン、往生際が悪いよ。先延ばしにしたのは自分なんだから、今日は観念してもらうよ」 観念と言われても、アスランが敢えて先延ばしにしたわけでもない。 「先行ってるから準備できたら来て」 そういい捨ててバスルームへと向かうキラの背後にはドス黒い気が見えた気がする。 その背が視界から消えるとアスランは大きく息をついてソファーに身を沈めた。 「・・・ちゃんと側にいるから、安心しすぎていたのか?」 同棲が決まった時、キラの上司であるフラガからアスランはキラの事を頼まれていた。フラガ曰く、キラの変化は戦争によるストレスが原因らしい。戦争が終わってからよくなっていると聞いていたのだが、今のキラを見るとアスランと一緒にいる事でもキラはストレスを感じているという事なのだろう。 「やっぱり一緒にはいれないのか?けど、一緒に住もうって言われたとき、どんなに嬉しかったか・・・」 アスランが息をつくと同時に部屋の扉が開いた。 「アスラン、ちゃんと来ないとお仕置きだよ」 先程同様強気に言い切ったキラはしかし、アスランの方を見て固まった。 「なんで・・・?」 キラがそっと近づいてアスランの頬に触れ、目の端に浮かぶほんの小さな涙の粒を拭った。 「ごめん、キラ。お前がどんなに俺との生活にストレスを感じていたかなんて全然分からずに・・・」 「・・・アスラン、何の事?」 「この一週間でストレスを溜めこんでしまったんだろ?だから、だからそんな風に・・・!戦争はもう終わったというのに!」 キラはそれが自分の今の状態を指している事に気が付き、心配げな表情を消しさり薄く微笑んだ。心配してくれているのだ、アスランは。 「そう・・だね、確かにだいぶ溜まってる。でも、大丈夫。今はアスランがいるから」 「大丈夫じゃない。元はといえば俺のせいじゃないか」 「ううん。だって今は僕をこんな風にできるのも、治せるのも君しかいないから」 キラの言葉にアスランははっと顔を上げてキラを見つめた。 「治るのか!?どうやって?俺にできる事があるのなら協力する」 「・・・じゃ、行こ」 手を伸ばせばあっさりとアスランがそれを取り、二人は連れ添ってバスルームへと向かった。 実際問題アスランの心配は思いっきり見当が外れているのだが、キラには好都合というものである。 (まぁ実際アスランのせいといえばアスランのせいだし・・・アスランにも悪いようにはしない、ってかヨクしてあげるわけなんだし) 「嫌いになった?」 「そんな事。例えどんなでも、キラはキラだ」 キラはそんなアスランの言葉に気をよくし、頬に口付けるとボタンを外しかけていたアスランの手を制した。 「アスラン、脱がなくていいよ」 「えっ、俺は入るんじゃないのか?」 「そうだけど。たまには僕が脱がすのもいいかなーって」 そういうとキラはアスランの服に手を掛けた。咄嗟に身を引きかけたアスランを引き寄せキラは耳元に顔を寄せた。 「協力、してくれるんだろ」 耳に直接囁かれた言葉にどきりとし、アスランは無言で頷いた。 今夜はもはや黒キラ様の独壇場といえよう。 (キラだって色々あったんだ。いつまでもあの時のままってワケじゃないし、それに・・・) 優しいキラも大好きだが、たまにはこんなキラも悪くはない。そうアスランが思っているあたり、二人にとってキラの変貌など本当は大した問題ではないのかもしれない。 かくして、周囲の妨害にもめげず、十分すぎる程バカップルな二人の2DK生活は案外幸せに続いていく。 後編、遅くなりました。 バーサク化キラを書こうとしていたんですが、半端なキレ具合ですね〜。後編はふれあい編とか言っておきながら、ふれあい直前編ですし、これでは。 致す事はきっちりしっかりだけれども攻め始めはどこか遠慮がち、とか言うのはアニメキラのイメージでした。フレイへの態度とかで。でもちゃんと好きな子には違うかもしれないですしねー。今回は白黒しっかりつけるためにこんな風にして見ましたが、キラアス好きとしてはいつでも攻め攻めであって欲しいです(爆)。 |
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