密の会議室





「セーラー戦士、というのを知っているかね?」

唐突に告げられた言葉の意味が分からずに一同は固まっていた。
質問が聞き取れなかったわけではない。
静かな会議室にクルーゼの美麗な声はしっかりはっきり響き渡った。
単語自体も聞いた事があるもの。
だが。
今現在、特別ミーティングがあると言われてクルーゼ隊でも精鋭の5人が会議室へ集まっている。
この状況で、だ。
ディアッカは思いつく当てがないでもないが、思いついたものはクルーゼとはどうにも結びつかない。他に何かあったか、とクルーゼの真意が掴めずにどう答えたものか思考を巡らせていた。

「敵の部隊ですか?」

生真面目に答えたアスランにクルーゼは仮面の下で緩やかに微笑んだ(ように思えた)。

「いや、知らないならそれでいい。単なるアニメーションの話なんだが」
「アニメ!?」

クルーゼとアニメというミスマッチさにイザークが小さく叫んだ。

「あぁ、それが妙に気に入ってしまってな」
「あの・・・隊長がご覧になったんですか?」

アニメを見るクルーゼ、というのも奇妙なものだが、「気に入った」という言葉にラスティも驚いたらしい。

「いや。実際私が見たというのではないのだがね」

クルーゼの言葉はいまいちはっきりしなかった。見ないものをどうやって気に入るというのか。

「・・・あぁ。感じ合ってしまったのですね」
「そんなところだ」

小さなアスランの呟きにクルーゼが頷いた。他の者はさっぱり話が見えなかったが、敢えて突っ込む程の愚を犯す者はいない。

「で、その戦士がどうしたのですか?」
「図らずも私のツボに深く入ってしまってね。そこで、今日の訓練はこれを身に付けて行って欲しい」

クルーゼはくるりと振り返り、後ろの椅子には用意されていた大きめの袋を指し示した。

「好きなのを選びたまえ、といいたい所だが、サイズの都合もあるので私の方で選ばせてもらった」

よく見れば袋にはイニシャルが記されている。
各自が自分のイニシャルの入った袋を手にすると、デスクの上のパソコンからピーと無機質な電子音が鳴った。クルーゼはデスクに向かうと短くそれに応じる。

「すまんが呼び出しだ。至急戻るので君達は準備していてくれたまえ」

足早にクルーゼが去った室内で一同は小さく息を吐いた。

「準備って、何の事だ?」

イザークの問に、ニコルとディアッカが袋を示した。

「一応、確認してみますか?」
「って中身はアレなんだろ」

身に付けるもの、サイズ、という単語からニコルとディアッカには見当がついてしまっていた。残りの3人は表情から察するに理解してはいないのだろう。そもそもこの会話の始めである「セーラー戦士」が何たるかを理解していない恐れがある。

「もしかして、全然知らないんですか?」

3人は首を縦に振った。ディアッカは頭を抱えそうになる。知らないという事は幸せである。もっとも、どんなに幸せであったとて目の前の状況から逃げられないのは同じであるのだが。

「僕は緑です」

袋の入り口から中身を覗いてニコルが言った。

「俺はオレンジ」
「・・・俺は赤だ」
「・・・青だ」
「白っぽいな・・・」

ニコルに倣って皆同じように恐る恐る中を覗き、見えた色を口々に言い合った。

「じゃあ一斉に開けるぞ」

先程の会話で殆どの事が分かったディアッカだったが、イザークの掛け声で仕方なく袋に手をかけた。

「・・・・・・」
「すごいですよ。よくできてますね」

出てきた物体に言葉を失くす一同を前に、ニコルは一人感心したようにしげしげとそれを眺めた。

「楽しそうじゃないか?」
「まさか。僕だってこんなの着るのは御免蒙りたいですよ。ただ何処でどうやってこれを手に入れたのかなーって思ってしまって」

そういうニコルはやはり誰が見ても楽しげだった。
セーラー服。しかも激ミニである。

「で?」
「これが何だと?」
「本気で俺達に着ろというのか?」
「とんでもないな」
「・・・隊長が嵌っているそうですから」

とはいえ、着ろといわれてはいそうですかと言えるシロモノでもない。
一同は広げた服を前にどうする事もできないままただ立ち尽くしていた。
誰も何も言わないまま空白の時間が過ぎ、再び扉の開く音に全員の視線が集まった。

「待たせてすまない。何だ、まだ着替えていなかったのか。さっさと着替えたまえ」

そういうとクルーゼは自らもさっと白い軍服を脱ぎ捨てた。デスクの下からなにやら包みを取り出すと、中からは黒いマントとシルクハットが現れた。

「た、隊長?」
「君達だけにそんな格好をさせるわけにもいかぬだろう。私も参加しようと思ってな」

クルーゼは実にてきぱきと着替え始めた。そうして黒のスーツにマント、帽子という妖しげな格好になった。

「なんで隊長はあんな格好なんだ?」
「タキ○ード仮面というのがいるんです。いつも仮面をつけている隊長にはある意味はまり役ですね」

ラスティの呟きにニコルが小声で解説した。

「これのまたの名はエンディミオンと言うらしい。全く・・・不幸な宿縁だな」

クルーゼは何処からか取り出した薔薇を口に携えると、何処に思いを馳せているのか視線を彼方へと向けた。
変な格好である事は確かなのに、妙に似合いすぎている、と皆は心の中で思った。白い蝶ネクタイまでが嫌味なほどキマっている。
そして不幸なのは寧ろ自分達だと思わずにはいられないのだった。




+++





何故男の身でありながらこんなものを着なければならないのだろう。
しかも軍務中に。
それぞれに疑問や空しさやを抱えていたが、隊長命令に逆らう事などできない5人はしぶしぶコスチュームを身に纏った。

「なんで俺とお前は同じ色なんだ」

衣装の気恥ずかしさもあってか、殊更不満そうな顔のイザークがアスランに絡んだ。
確かにイザークもアスランも襟は共に青色。他の3人に比べれば近いと言えなくも無い。とはいえ、面白くないのは色云々よりこんなものを着ているせいである。要するにやつあたりだ。

「イザークはリボンが赤いじゃないですか」

ニコルが宥めるように言ったがイザークは青いリボンの方がいい、と漏らした。

「イザークが主人公の衣装なんだぜ」

ディアッカの言葉はイザークならば主人公格を割り当てられていると知れば悪い気はしないだろうと思ってのものだった。ディアッカにしては珍しくイザークを宥めるようなセリフなのは、この状況であまり揉め事を起こしたくないという心の表れだ。イザークも大人気無さを感じたのか、フンと鼻を鳴らすとそれで大人しくなった。だいたいいい男がスカートの色で揉めるとはあまりにアホらしい。

「主人公はタ○シード仮面と恋人同士で、ヒロインのピンチには颯爽と駆けつけてくれるんですよ」

だが、続いたニコルの言葉にイザークの顔がさっと高潮した。

「恋人・・・!?」

実はイザークは隊長大好きッ子である。だがそれとこれとはワケが違う。純粋にクルーゼの戦績を尊敬しているのであって、あんななんたら仮面の恋人なんて言われるのは冗談ではないのだった。

「おい、アスラン。服を変えろ」
「何故俺が・・・」

イザークとアスランならサイズ的に交換できなくもないだろう、そう思っての事だ。別に他のと比べてアスランの衣装がいいと思ったわけではない。

「ちょっと待て」
「うるさい。いいから脱げ!」
「断る!」

はっきり言ってこの二人の喧嘩、もといイザークがアスランに絡むのはいつもの事だ。ディアッカはそれを特に止めようとはせずに、いつも面白そうに眺めている。
それは勿論今も然り、であるはずなのだが。

「イザーク。スカートを引っ張るのはやめろ」

ディアッカは思わず声を出してイザークを諌めた。ミニスカートを引っ張って脱げだの脱がないだの言っている姿はなんとも精神衛生上よろしくない。たとえ着ているのが男だとしても、だ。あの二人の精神の構造まではしらないが、ディアッカは正常なお年頃の男子なのだ。ヒラヒラのスカートはそれだけでまともな神経を麻痺させかねない。

「いいじゃないですか、主人公。主人公には決めセリフがあるんですよ」

ニコルの言葉にイザークはようやくアスランのスカートから手を離した。

「何だと?」

ニコルはそっとイザークの元へ近づくと耳元にひっそりと何事かを囁いた。イザークの眉がたちまち顰められる。

「・・・ッ、誰が言うかっ!!」
「何だ、そんなに変な言葉なのか?」

イザークの反応にアスランが仄かな興味を示した。

「知りたいか?なら教えてやる」
「いや、知りたくない。知りたくないから離せ」

そうやってバタバタとのたうち回っている二人とそれをのほほんと眺めているニコルとを見遣りながら、ディアッカは止める事など諦めてラスティの元へと避難した。
二人で大きく溜息をつく。

「思いのほか仲が良いのだな」

いつのまにかラスティの隣にたったクルーゼはイザーク達の方へ視線を向けて満足そうに呟いた。
ラスティはなんとも答えがたくはぁ、と曖昧に応じた。仲良く、とは見えなくもないような、果てしなく遠い世界のような複雑な気分である。

「あの、訓練は良いのですか?」
「構わん。これも一種の訓練だ」

意味不明な言葉に首を傾げたラスティだったが、隊長が何も言わないのであるのなら放っておこうと心に決めた。

「決めセリフか。そうだな・・・」

先程のニコルの言葉が気になったのか、顎に手を当てて考えるクルーゼをラスティは内心ではらはらしながら見守った。この隊長ならば、どんなセリフが飛び出すか分からない。

「我々の決めセリフはやはり『ザフトのために!』だな」

ラスティとディアッカは心の中で良かった、と安堵した。もっとド肝を抜くようなセリフを予想していただけに、ちょっぴり普通すぎると思ってしまったくらいだ。

「さて、次はポーズでも考えるか。ラスティ、ディアッカ。空いているのなら君らも考えたまえ」

ご指名を受けた二人は思わず視線を交わした。自分達が空いているという事は残りの3人は空いていないとでも言うのだろうか、この隊長は。考えた所でクルーゼの思考など読み取れるはずもない二人は、未だ何かを言い合っている3人(と言っても殆どしゃべっているのはイザークだ)の元へと近づいた。

「ったく。ホラ、お前たちも来いっ」

ディアッカはイザークを、ラスティはアスランを掴んではクルーゼの元へと引っ張った。

「よし。では全員で取り組む事としようか」

こうして本日の訓練は6人でポーズ決め&練習と相成ったのである。




会議室での秘密の訓練。
これが実はG奪還作戦に向けて隊員たちのコミュニケーションを取るためのクルーゼの秘策だった、なんてのは誰も知らない話。
ラウ・ル・クルーゼ、28歳。全くもって奥の深い男である。









珍しく非カップリング話。
普通に敵と戦う話を考えたら背景とか組織とかで長くなりそうだったのでこんなバカ系に。最近のアニメでどうにもブルーな私は考えるだけで楽しかったんです。セラムン、そして隊長を敬愛するもごめんなさい。愛はあるんですよー。






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