G奪取作戦のメンバーが発表された。 選ばれたのは訓練の戦績からすれば納得のメンバー。つまりはエリート達である。 そんな輝かしいメンツに選ばれておきながら、イザークは不機嫌そうな面持ちで廊下を歩いていた。後ろから名を呼ぶ声がして、ディアッカが駆け寄ってくる。 「重要任務らしいな、腕がなるぜ」 今からやる気を漲らせているディアッカはイザークの表情が芳しくないのに気が付いた。 「どうしたんだよ」 「あのアスランも選ばれたってな」 アスランは主席なのだからこの重要な任務に選ばれる事はおかしくなかった。しかし、だ。一緒に作戦を実行するというのはイザークにはどうしても面白くない。 「そんな顔するなよ。この機にアイツ以上の成果をあげりゃいいだろ」 「まぁそうだな。せいぜい足手まといにならないでほしいものだ」 ディアッカの言葉に気を取り直してイザークは不敵な笑みを浮かべた。 実際この時点で、イザークはアスランと会話らしい会話を交わしたことなどない。始めから毛嫌いしているのでまともにアスランの事など知らないし、知るつもりもない。 だが、はっきり言える。 例え何があっても彼と気が合う事はないだろうと。 作戦に参加するパイロット達は訓練と称して召集されていた。 一同は気合を入れて戦艦に乗り込んだ。 だが、着いたのは何故か観光プラントだった。 観光プラントには様々な娯楽施設が存在する。一瞬目的地を間違えたのではないか、と危ぶんだ一行であったが、隊長のクルーゼは艦を降りると何の躊躇いも迷いもなく用意されていた車に乗りこんだ。 少年達も仕方なく黙ってそれに従う。 「まさか死ぬ前にせいぜい遊んどけって?」 「縁起でもないな」 車外に過ぎ行く建物をバックにディアッカとイザークは囁き合った。何しろ訓練に使われるような場所は全く思い浮かばないのだ。 車はやがて煌びやかな建物の連なる地域へと突入した。 「ここは―」 そこは観光プラントでも所謂大人のスポットとして知られる地域だった。 カジノやら風俗店やらが連なっている。 その一角で車が止まった。 車から降りた一行に向き直りクルーゼは徐に言い放った。 「さて、諸君にはこれから男になってもらう」 突然の発言に少年達の頭の中には?マークが飛び交った。 「・・・あの、僕たちは男なんですが」 極めて冷静に言ったのはニコルだった。 「あぁ。私だって勿論そんなことは確認済みだ」 確認って?と、突っ込みを入れそうになるのを抑えながら、それでも一同はクルーゼの言葉を待つ。 「つまり、私が言っているのは・・・」 クルーゼは数歩進むと、一つの店の軒先で足を止めた。 仮面の下の瞳が無言で少年達を見つめる。 まさか―、と誰もが思った。 だってそんな事は予想だにしていなかったのだ。 だがクルーゼは薄く微笑むとその店の中へ吸い込まれるように入っていった。 そこは紛れもなく娼館だった。 店の女主人は厚い化粧と派手な衣装に身を包んでいるが、建物の感じも品がいい。こういった娼館の中ではかなり上等な所といえる。 まだ若い少年達はこういった場所には不慣れだった。一番年上のミゲルでさえ物珍しそうに周りを見回している。 やがてクルーゼと話していた女主人が、少年達の方へやって来た。 「隊長さんたってのお願いですから、今日はどの娘も予約はなしですよ。さぁ好きな娘を選んで頂戴」 女主人の言葉に隊長って何者なんだ、と一同が思ったのはさておき、手拍子と共に奥からはぞろぞろと女達が現れた。 女達はどれもそれなりに整った顔立ちで、あからさまに肌を露出した格好の者からきちんと着物を纏い一見貞淑そうな者まで様々なタイプが揃っている。 一通り並んだ所で女主人はさぁ、と促した。 「俺は君にしようかな」 「僕は・・・じゃあ、お願いできますか?」 ディアッカはさっさと肉感的な女性を選び、ニコルも遠慮がちな笑みを浮かべながら、さり気なーく大人の女を選んだ。 「ほぅ、なかなかの趣味だな」 選ばれた女を見遣るとクルーゼが感想を述べた。 「いい女を選ぶ目というのも軍人の大事な資質だからな」 (本当かっ!?) 一同は心の中で呟いたが、声に出す者はいなかった。 「えぇと。俺はこの子かな」 「俺はこっち」 クルーゼの言葉に若干緊張しながらも、ラスティは比較的大人しそうな可愛い娘。ミゲルも品の良さそうな女を選んだ。 「さあ、後はイザークとアスランだけですよ」 「何っ!?」 促すようなニコルの言葉にイザークは声を上げた。 イザークは突然の状況に思考を半停止させてしまっていたが、何としてもアスランだけには負けるわけに行かないと突然我に返った。 「ほら、アスランもさっさと選べよ」 ミゲルの声にアスランはうーんと困ったような声を出す。 「そんなに悩む事もあるまい」 「しかし・・・」 幸いアスランもまだ迷っているようだ。これはチャンスである。 イザーク・ジュール17歳。元エースパイロットの沽券にかけて、なんとしてもアスランよりは先に選ばなくてはならない、とぐっと拳を握り締め、眼前の女達を睨みつけるように見た。 (だが、どうやって決めればいいんだ) はっきり言って困った。適当に選んでしまえばいいのだろうが、ここでイザークの趣味云々を言われてはかなわない。適度にいい女を選ばなくてはならないのだが、はっきり言ってイザークの好みの女などこんな所にいない。 そうこうしているうちに女達は残り二人になった少年を取り囲むようにしてきた。女を見ているというよりも寧ろ見られているという気になってくる。女達は声を上げ、全身で「選んで」というオーラを発している。これは早く選ばなければ、とイザークがいよいよ焦り始めた時である。 「あ、遅れて申し訳ありません」 一人の女が奥の間から現れイザーク達の前へ歩み寄ってきた。茶色い髪をしたその女は女性的というよりは寧ろ中性的な雰囲気を放っていた。色気ムンムンの女は苦手なイザークであるが、かといって中性的な女に興味があるわけではない。いや、そもそもこういった場所にいる女などに興味はないのだ。とイザークが悶々と考えていた時である。 「あの・・・」 イザークの横でアスランが声を発した。 「お願いしていいでしょうか?」 「えぇ。喜んで」 しまった、と思った時には既に遅く、イザークがぼさっと女を観察している間にアスランが現れた女性を選んでしまっていた。 「ほら、イザークも早く決めてください」 「分かった」 脱力したイザークは最早女を見る気もせず、適当に目の前の女を選んだ。 さて、女郎選びも終わり、一同はようやく解散となった。 クルーゼからは出発は明日だと告げられた。つまりは一晩、ここで過ごさなければいけないのである。 各々は女達に招かれ個室へと案内された。 しっかりと締められた襖を見つめて、アスランは深い溜息をついた。 アスランの選んだ女性は比較的露出が少なく、化粧の感じも派手ではない。 何とか女性を選らばなければならないと追い詰められていた時この女性が現れたので弾みで選んでしまった。いや、弾みというのは正しくない。ほんの少しだけ、どこか懐かしさを覚えたのだ。 茶色い髪と白い肌。そしてどこか抜けていそうなおっとりとした感じ。 あっ、とアスランは心当たりに思い当たって少し驚愕した。何も娼婦相手に思い出す相手じゃないだろうとブンブンと頭を振ってそれをかき消す。 「考え事?」 「いえ」 覗き込んでくる女にアスランは首を振った。 「じゃあ、始めましょうか」 言うなり女はするすると服を脱ぎ始める。 「え?ちょ、ちょっと待って」 「何?具合でも悪い?」 いや、そうじゃなくて、と言いかけてアスランはうまく逃れるための言葉を探した。 「俺には婚約者がいるんです」 「あらそう。でも大丈夫。こういう事は浮気にはならないし」 女はにこっと微笑んだ。次の瞬間、おっとりした女だと思ったアスランの認識は甘かった事に気付かされる。くるり、とアスランの体は反転してあっという間に彼女の下に敷きこまれてしまった。 「うわぁっっ」 「大丈夫。ちゃんと良くしてあげる」 女はもう一度微笑んだ。力では男の自分の方が有利なのだろうが、投げ飛ばすわけにも行かず、かといって乗りあがった女を持ち上げる程の力はない。 「わあぁぁ」 女の手が強引にアスランの服を掴んだ。 「ほら。大人しくして」 (キラっ。一瞬でも似ているなんて思ってごめん) アスランは心の中で幼き友に深く懺悔をしていた。 一方、隣の部屋。 イザークは大きく息をついていた。イザークは先程の女選びだけですっかり疲労している。 「お疲れのようねぇ。肩でも揉みましょうか?」 女がイザークの肩に手を掛けた。一瞬びくりとしたが、肩を揉むだけだと分かると大人しくされるままにした。何しろこれから一晩も、この女と過ごさなくてはならないのである。こんな事でうろたえてどうする、とイザークは心の中で深呼吸した。 「もういい」 「そう?」 不意に、隣からはばたばたという音が聞こえた。 「お隣は激しいわねぇ」 耳を澄ませば小さく声も聞こえてきた。 「ここは続き部屋だからちょっと煩いかもしれないわね。ごめんなさいね、生憎お座敷の部屋が足りなくて」 女はそう言うと肩にかけていた手を離した。と次の瞬間、その手をするりとイザークの首に回す。 「な、何をする!」 「何って、隣の声、聞こえないくらいに夢中にさせてあげるわ」 女は軍服の詰襟をあっという間に外した。 「わあぁっ!触るな」 イザークは女郎相手にも偉そうに言った。 「カワイイ。照れてるの?」 イザークの態度は逆効果だったようで、女は尚の事嬉しそうに微笑んだ。 「どこ触ってる!?」 「どこって、気持ちよくない?」 イザークは女の手を払い退けたが女は愉快そうに笑うだけだった。 「ふふ、初めて?イロハくらいちゃーんと知っとかなきゃ、いざって時に女の子に嫌われちゃうわよ」 女の手がイザークの胸元に入りこんで撫で回した。ざわりと総毛立つ感覚にイザークは思わず息を呑む。 先程気持ちがいいかと聞かれたが、はっきり言って気持ちよくなんかない。 だって、こんな事は。 (こんなのは、違うだろう) イザークは真っ白に欠き消えそうな思考を何とか保ちながら知恵を総動員してみる。 そして、がばりと立ち上がると扉に向かって駆け出した。口で言っても払いのけても逃げられないならここを出るしかない、と思ったのだ。 「あっ、そっちは・・・」 女の声がイザークを制したが、構わずに勢いよく襖を開けた。 だが― 「ア、アスランっ!?」 なんで、とイザークの頭の中はついに真っ白になってしまった。廊下に出るはずだったというのに、眼前では半裸のアスランがこれまたあられもない姿の女に敷き込まれているのだ。 「ちょっと。お隣の邪魔しちゃダメじゃない」 イザークの後ろから女が近づいてきて腕を取ろうとした。イザークは慌ててそれを払いのけると思い切ってアスラン達の方の部屋へと踏み込んだ。どうせ開けてしまったのだから、とすでに自棄っぱちでアスランの部屋の方から出る事に決めたのだ。 だが、アスランの横を通り抜けようとした時、突然足首ががっしりとつかまれた。 「イザ・・・ーク・・・」 足首を掴む力は強かったが、アスランの目は虚ろだった。いつもは凛とした表情を崩さない彼は最早息も絶え絶え、泡でも吹かんかという有様である。非常に情けない事この上ないが、イザークの方もすっかり上は脱がされ、半泣きの状態だから人の事は言えない。 「ちょっと、もう」 突然の侵入者の訪れにアスランの上に乗っていた女は起き上がった。その隙にアスランも何とか体勢を整えて起き上がる。 「ダメじゃないの。私達は貴方達にいろはをしっかり教えてあげるように頼まれてるんだから」 「い、いろは・・・」 女の言葉をアスランが掠れた声で繰り返した。 「そう。心配しなくっても私達がちゃーんと教えてあげるから」 「要らんっ」 イザークは非常にキッパリと断ったが、女達には微塵も聞く様子も見られず、にじにじと二人に詰め寄ってくる。 女の気迫に気圧されて、イザークとアスランはおずおずと後退ることしか出来なかった。だが狭い部屋はすぐに壁にぶち当たってしまう。 イザークとアスランは互いを見遣った。 双方すっかり青ざめている。精魂ともに奪われている今、強行に突破というのは難しいかもしれない。なにより、あんまり無茶苦茶な事をして事を大きくしたくもない。 「もう、純情なんだから」 女達の手が二人に触れる間際。二人は短く視線を交わした。 そして、二人はいきなりがばりと抱き合った。 「「スミマセン。俺たち、愛し合ってるんです」」 女達の手がぴたりと止まった。 目を閉じても一向に眠りに付けなかった。 近隣の部屋から聞こえる嬌声も、部屋に漂う変に甘い香の香りも全く気に入らない。 とはいえ、自ら身が危険に晒された事を思えばまだまだマシなのだと諦めてイザークはゆっくり息を吐いた。 「言っておくが、オマエの事なんて嫌いだぞ・・・」 少し離れたところで横になっているアスランに向かって、イザークは乱暴に言い放った。 そう、この状況で最も気に入らない相手と同じ部屋に泊る事になったとしても、まだマシなくらいはひどい目にあったのだ。 「わかってる・・・」 アスランが小さく答えた。 先程は状況が状況だけにお互い気が動転していたと思う。うまく切り抜けたのは最早奇跡的だとしかいえない。女達はさすがに呆気に取られていたが、「大丈夫。私、そういうの理解があるから」と言うと、それまでの強引さが嘘のようにあっさりと引き下がってくれた。おまけに「後は任せてv」とウインクして帰っていった所をみると、きっと隊長にもばれずにうまくやってくれるのだろう。 そういった意味ではとりあえず一安心である。 とりあえず、ではあるが。 「絶対に、誰にも言うなよ」 「・・・言うか」 アスランだって頼まれなくても誰にも言うつもりはなかった。 イザークも折角ライバルの醜態を掴んだチャンスではあったのだが、同時に自分の醜態をも晒しているのだから他の人間にはとても言えたものではなかった。 だから、これは二人の秘密。 女郎屋が繋いだ、小さな小さな友情。 いかがでしょう?
メールでの会話に萌えて突発的に浮上した企画でした。 きっとひっくり返るのはイザークとアスランに違いない、という事になりメインはこの二人。 書いていて楽しかったしついでに読めて二度おいしい。 私の方はイザークとアスランのプチ友情の芽生えを目指したつもりです。 それでは、お口直しに和泉さんの作品にて可愛いイザークをご覧下さいませ〜。 |
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