刊ザフトボーイ





それはキラの勝手な行動の処分が決められた直後の事。
一度は死罪という大変な処分を下されかけたキラだったが、民間人という事でなんとか大事を逃れることができた。

「まぁ、勝手な事はするなって事だ」

フラガの言葉に頷いたキラの表情は暗かった。
こんな裁判にかけられた後では仕方がないだろうとは思うものの、すっかり兄貴分のフラガはキラを心配げに見つめた。
そういえばキラは、あの後戻ってきてから元気がない。

「何かあったのか?」
「いいえ」

キラは首を振った。
後悔していないと言えば嘘になる。
けれども、ここに戻ってきたのは確かにキラの意思だった。
周りに心配をかけてはいけない、とキラは強張らせていた表情を何とか崩した。

「にしても、とんでもないお嬢様だったな」

いつもどおりの軽い口調で、フラガはラクスの事を口にした。

「そうですね」
「おっとりしたお嬢さんかと思えばなかなか味な事をしてくれるし、いったいどんな教育を受けてるんだかな」
「彼女の親はプラントでは有名な人なんですよね」
「あぁ、父親は評議会の議長らしいぜ。ま、顔はあんまり似てないがな」
「フラガ大尉、お知り合いなんですか?」

フラガの言葉にキラは驚いて声を大きくした。

「ンなワケないだろうが。写真を見ただけだよ」
「写真?」
「あぁ、たまたま手に入れてな。見たいか?」

キラがこくんと頷くと、その様子にフラガは軽く微笑んだ。
案内されるままに、キラはフラガの部屋に招き入れられた。
端末を繋げばデータを引きだせるというのに、フラガの部屋には随分と多くの雑誌類が置いてある。フラガはその中から1冊の雑誌を選び出すと、目的のページを開いてキラの前に広げた。

「これが・・・」

キラは壇上で何事かを話している男を見つめた。シーゲル・クライン(左)と書かれている男は、確かにラスクとはあまり似てはいない気がした。

「熱心だな。そんなにあのお嬢ちゃんが気に入ったのか?」
「いえ、そんな事はありません」

キラは頭を振ったが、フラガはからかう様な笑みを浮かべた。
キラから見ればこの男はアスランの義父になるかもしれない人物なのであるから、チェックをしておくのは半ば義務ともいえる。
記事はその日の評議の内容などが書かれていたが、興味を引かれる内容ではなかった。キラはそのままパラパラとページを捲った。巻頭部分だけは時事ニュースになっているが、大部分は下らないゴシップネタの雑誌らしい。
だが突然、何かに引かれたように、キラは1つのページで手を止めた。

「ん、何か面白い記事でもあったか?」

その様子に気付いたフラガが雑誌を覗き込んだが、そこには『こんな女に騙された』という見出しが記されている。そんな所が気になるのか、とフラガはキラの密かな一面を見た気がして驚いていた。
だが実際、キラが惹かれていたのはそんな所ではなかった。
キラの目が見つめているのは記事の下方にほんのちょっとだけ設けられた広告欄。
キラが手を止めたのは他でもない、そこにある写真のせいである。
それはとある雑誌の宣伝だった。


『月刊ザフトボーイ』


そう銘打たれたロゴの下には、どういうわけかキラが求めて止まない親友が不機嫌な表情で載っていた。
(なんで、アスランが?)
アスランは確かに人並みはずれて優れた容姿を持っているが、ごく一般の軍人の筈である。こんな所においそれと写真が載るわけがない、とキラは思っていた。
そのまま誘われるように写真の脇に連なる数々の煽り文句に目を遣って唖然とする。


巻頭大特集

『軍服&パイロットスーツ』

どっちが似合う?

年代別、[俺流]着こなしワザをチェック



(あ、あんなものに着こなしがあったのか・・・)
キラは自分の制服、及びパイロットスーツを思い返した。
そういえば、フラガのパイロットスーツはキラのものとは違った色合いである。あれが俺流という事だろうか、などとボケた事を考えながらも、目は文字を追い続ける。


[肉声]スクープ

幻の作戦会議

『その夜、寮生達の身に何が起こったのか・・・』



(な、何があったんだ・・・!!)
なんてマニアックな内容なのだ、とキラはすっかり引き込まれていた。
しかし、内容はまだまだ充実している。



人気企画第2弾:
仮面の下の真実

『クルーゼ隊の実態に迫る!!』

隊長の[セクハラ疑惑]は果たして本当なのか?

隊員達の達の密かな本音を大公開




(アスラン・・・大丈夫なのかっ!)
キラ・ヤマト(16才)は思わず唾を飲み込んだ。
ただでさえ軍という所は男所帯である。キラの脳裏にまさに酒池肉林とばかりに乱れる軍人達の姿が展開された。
(アスランっ・・・)
アスランのような美丈夫が何事もなく過ごしているという方が無理がある。いや、しかし。ここは彼を信じなければ男じゃない、とキラはわけの分からない理屈で何とか自身を納得させた。

そして、何より気になる記事は・・・。


旬のアイドル独り占め☆

『アスラン・ザラ』丸秘カット

エースパイロットの笑顔がついに公開かッ!?

ザフボが極秘入手


キラの頭の中で、幼いアスランや現在のアスランやらが可愛らしく微笑むビジョンが次々と浮かんでは消えた。
こんな・・・、こんな本があっていいのだろうか。
キラにとってはまさに晴天の霹靂であった。
こんなものをプラントの連中は見ているというのか!?
けしからん、こんなプラントは直ちに滅ぼさねばならない。
否、こんなプラントに今すぐ飛んで行きたい。
軍人をなんだと思っているんだ、という怒りも無きにしも非ずではあるが『見たい』という本能が何にも勝っていた。さらに、自分のアスランをこんな風に公開するんじゃないと訴えたい気持ちもあったのだが、二人の間にブランクがある以上、キラはどんなアスランも見逃さずにはいられない気分であった。

「一体どうしたんだ?」

青くなったかと思えば赤くなったりと忙しいキラを、訝しげに眺めていたフラガが思い切って声をかけた。その声にキラもはっと我に返る。

「・・・いえ。この雑誌はプラント発行のものですよね。どうやって手に入れたんでしょうか?」

キラの問いかけにフラガはどうしたっけなーと首を捻った。

「えーと、倒したザフト兵の機体を分捕った時に、たまたま入手したんだっけかな」
「そう、ですか」

キラはフラガの言葉に答えたものの、視線はどこか遠くを見ていた。
そんなキラの様子はちょっと普通じゃない、とフラガの百戦錬磨の勘が頭の中で警鐘を鳴らしていた。
どうしたものか、とフラガが思った丁度その時、けたたましく非常のベルが響いた。

「総員第一戦闘配備」

艦内に響く警戒音に、キラはばっと雑誌を閉じて立ち上がった。

「大尉、行きましょう!」

キラは先程の遠い眼差しはどこへやら。珍しくやる気満々だった。
今まではあんなに戦いを嫌がっていたのに、と不審に思うフラガにキラはにっこりと微笑んだ。

「今日は、なんだかとても頑張れそうな気がします」
「あ、あぁ・・・。頼んだぞ」

キラの背後に黒い影を感じたフラガは、差し出された雑誌をデスクの上に置くとすぐさまキラと共に愛機の元へと向かった。

「敵は、デュエル、バスター、ブリッツとナスカ級がいるわ」
「あの3機か・・・」

ストライクに乗り込むと、キラは通信機から流れるミリアリアの声にキラリと目を輝かせた。
あの3機のパイロット達とは知り合いではないが、自分とさして変わらない年代の少年たちだという事だけは分かっていた。
そう、だから・・・。

(ヤツラなら、持っているかもしれない)

キラの目的はアークエンジェルの保護からもはや遠くかけ離れていたのだが。


「キラ・ヤマト、行きます!!!」


いつになくはりきって飛び出していったキラの真意を知る者は、誰もいない。









あぁ馬鹿だわ、私。しかも書いててこんなに楽しいなんて(爆)
50の質問で答えた月刊ザフトボーイをネタにしてみました。
もうちょっと絵心があればステキな表紙を作って見たかったのですが、なんとか文字だけでザフトボーイの内容を表現してみました。・・・ちょっと力不足な感は否めませんが。
ネタにした時はこの人たち紙の雑誌なんて読まないんだろうなーと思っていたのですが、先週大尉が雑誌を捲っていたのを拝見して急遽書き上げてしまいました。
今私が気になるのは、この本は果たして男性向きなのか、女性向きなのか、という事です。







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