..........鳥居の奥に行けなくて......... まばゆいばかりの電飾が、道を明るく照らしていた。 扇情的なミニスカートをはき、丈の長い上着を羽織った女性達があちこちに立っている。大抵は大きく広がった入り口の脇にいて、自分たちの女性的な美しさを誇示しているように見えた。 時刻は夜に差し掛かっている。PLANTの天井は陽光から夕闇へと切り替わっており、大きな月のホログラムが浮かび上がっていた。 一本の通りを挟んで、両側に華やかなビルが立ち並んでいる。他では見られないような、凝った造りのビルが多い。そして、そのビルを宣伝するようにあちこちに立っている女性達も、凝った衣装を着ていた。 やたらに丈を短くした学生服を纏った女性。胸元のボタンを大きく広げ、どうやらその下には下着しかつけていない様子の白衣姿の女性もいる。 イザークは目のやり場に困り、ずっと俯いて歩いていた。 右脇のニコルは、物珍しそうにあちこちを眺め回している。高いビルの上の方でも見ているのだろう、反っくり返って歩いていた。 左にいるディアッカは、慣れた様子でこの移動を楽しんでいる。グラマーな女性がいれば、野卑な口笛を吹いていた。 イザークの前には、白い軍服を纏ったラウ・ル・クルーゼの背中がある。肩あたりまで伸ばした金髪を揺らしながら、黙々と歩いている。 出兵の細かな日時まで決定してから、クルーゼは隊のパイロット候補生を呼びつけた。暫く実戦で経験を積んだ後、ヘリオポリスでの特殊任務に就くことが定められた者たちだ。 そして、そのままここへ連れてこられたのである。 説明は一切ない。ただ、「必要があると思う」と言われただけなのだ。 まさか、PLANTの歓楽地区に連れてこられるとは思っていなかっただろう。この中の誰一人として。 クルーゼは通りの突き当たりにある建物の前で足を止めた。 赤い柱が立ち並んでいる。柱の頭頂部に、柱と同じ太さの木が二本渡してある。その、奇妙なコの字型の柱が十数本も並んでいるのだ。 「鳥居だ」 ぼそりと背後のアスランが呟く。 イザークはようやく顔を上げ、肩越しに彼を振り返った。 「トリィ?」 「鳥居だ。日本の宗教のモチーフみたいなもの……かな」 「気持ち悪いなぁ。真っ赤だし」 鳥居とやらを見上げたラスティが呟く。イザークも頷いた。 「エキゾチックなカンジで面白いと思うけどォ」 ディアッカも鳥居を見上げる。十数本連なった鳥居が、通路のように建物の入り口まで繋がっていた。 柱をくり抜いて、灯りが入れられている。本物の蝋燭に火を灯しているわけではないだろうが、良くできていた。 「ここ、一番奥ですよね。じゃあ、一番大きいお店なのかな」 ニコルがぽつんと呟く。 イザークはようやく周囲に女性が居なくなってホッとしながら、「そうじゃないのか」と素っ気なく答えた。 女性は苦手だった。特に、平気で肌をさらけ出すようなのは。 「まさか歓楽街に連れてこられるとはな……」 小さく呟く。 アスランも困ったような顔をしている。ラスティはすっかり緊張しているように見えたから、動揺していないのはニコルとディアッカだけになる。 「プロとお相手出来るならオレは歓迎。楽しいと思うよぉ」 ディアッカがにやにやと笑う。 「未成年がホイホイ立ち入れる場所じゃないしねぇ。ダメってワケじゃないけどさ」 「ディアッカはホイホイ立ち入ってそうなイメージありますけど」 ニコルが小首を傾げて言う。ディアッカが大袈裟に肩を竦めた。 「あー、それはナイナイ。だってオレ、素人専門だもん」 「……そういう俗な話はいい」 イザークはげんなりして言う。腰に手を当て、建物の入り口を見た。 少年達の雑談を眺めているのか、奥のカウンターにもたれ掛かったクルーゼがこちらを見ている。 「行くぞ」 イザークは手で示した。 × 飾りのような格子戸に囲まれた座敷に、何人もの女性が居た。 色とりどりの変わった衣装を身に纏い、にこにこと微笑みかけてくる。 大きく裾にスリットが入っており、どの女性も動くたびに太腿の付け根近くまでが露わになる。イザークは顔を顰めた。 「怖いことはない」 背後で座敷を覗き込んでいたクルーゼが、イザークの耳元に囁いてくる。 「男になって来るんだ。私は受付で待っている」 とん、とクルーゼの指先がイザークの背中を叩く。 逃げ出したい気持ちを必死に堪えながら、イザークは頷いた。 クルーゼが立ち去ると、女性達がわらわらと寄ってくる。 「ザフトのコたちよ」 「嘘ぉ、若いのに」 「だって軍服だもん」 「プレイじゃなくてぇ?」 「みんな可愛いじゃない。ね、キミ、あたしを選ばない?」 口々に甲高い声で話しながら近づいてくる。イザークはそれから逃れるようにじりじりと移動し、 がたんと格子戸にぶつかった。 女性達に囲まれ、それぞれがバラバラになっている。ディアッカは上機嫌で笑いながら、女性達を選んでいるようだ。 こういうのは、苦手だった。 女性達の胸元や太腿ばかりが目にはいる。恥ずかしくなって目を閉じると、胸に誰かが手を触れた。 目を開けると、笑みを含んだ丸い瞳がイザークを見上げている。ニコル程度の身長しかない、小さな娘だった。 それでも、年はイザークよりも上だろう。少女のような雰囲気ではあるが、きちんと化粧をしていた。 「具合でも、悪いの?」 微笑みながら、問う。イザークは慌てて首を振った。 気付けば、座敷から他の者は姿を消している。残された女性の視線が、全てイザークに集中していた。 もう諦めたのか、大きく胸元をくつろげて座り込んでいる女性もいる。 イザークは自分の顔が真っ赤になっているだろうと思い、俯いた。 「風に当たった方がいいみたい。ね、あなた。こっちにいらっしゃいよ」 少女のような娼婦がイザークの手を引く。 座敷の奥の階段を上ると、女臭さが消える。その代わり、更に嫌なものが待っていた。 嬌声である。 淫らなくらい開けっぴろげな笑い声や、若者の神経を直接刺激するような甘い悲鳴が聞こえてくる。 逃げ出したい。 その一言だけが頭の中で点滅している。 丁寧に磨かれて光った階段を上りきると、娼婦はそのままイザークの手を引き、館の中を歩き回った。 顔を上げることが出来ず、イザークは始終俯いたままで彼女に従う。彼女が纏っている衣装の赤い裾が、ふわふわと揺れているのだけが見えた。 風が、頬に当たる。 顔を上げると、細長いバルコニーに出たところだった。 赤く塗られた丸い手すりがついている。足元も木製に似せてあり、どこか先ほどの鳥居と同じ雰囲気を持っている。 バルコニーからは、川が見えた。 歓楽地区と一般居住区を隔てている川だ。 「悪くない景色でしょう?」 娼婦が微笑んだ。川の両脇に並ぶ街灯が、川の太さをそのまま表している。揺れる水面に街灯の光が反射していた。 歓楽街ばかりが明るく、居住区は太陽の脇の星のように頼りない。 電飾で、歓楽地区は燃えてているように見えた。 「昼間はもっと綺麗よ。ねえあなた、もしかして女の人はダメなの?」 娼婦が微笑みながら問う。イザークはすぐさま頷いた。 「あらそう。じゃあ可哀想だったわね。外に行けば、男の子が相手してくれるお店もあるのよ」 「あ……いや、そうじゃない。男がいいっていうわけじゃない」 イザークは慌てて首を振った。 大きく溜め息を吐く。 手すりにもたれ掛かった。 娼婦は黙り込んだイザークに声をかけるのもためらわれたのか、すぐ横に突っ立ったまま静かに川を見ている。美しい横顔だった。 ただ、胸元を強調する卑猥な衣装が頂けない。どうしても、顔よりもそちらに目がいってしまう。 イザークは赤くなって口元を押さえた。 こんな時、どうしたらいいのかなんて判らない。 ばたばたと足音が聞こえてきたのはその時だった。 バルコニーの脇にあった階段を、アスランが駆け下りてくる。 バルコニーに足を踏み入れ、バランスを崩して転びかける。 イザークは咄嗟に手を伸ばし、アスランの腕を掴んだ。 「あ……イザーク」 体勢を立て直したアスランが、驚いたように目を見開く。 照れたように俯いた。 「ええと。邪魔かな」 「そんなことないぞ」 イザークは首を振る。アスランはほっとしたように頷き、イザークの隣の手すりにもたれ掛かった。 娼婦がさらさらと衣擦れの音をさせて手すりから離れる。 背伸びして、イザークの耳朶に唇を寄せた。 「お話終わったらここに来て。待ってるから。他のコを選んだらだめよ」 囁き、イザークの手にプレートタイプのキーを握らせる。 そのまま、裾を揺らして歩いていってしまった。 「オレはどうもこういうの……駄目らしい」 アスランがぼそりと呟く。 イザークは渡されたキーを手の中で弄びながら、アスランの方に身を寄せた。 「女の人が駄目っていうんじゃなくて。何というか……その、うーん……苦手なんだな。慣れてない」 アスランはぼそぼそと弁解のように呟き続ける。 「本番に弱いタイプか?」 キーに打たれている名前を指先でなぞりながら、イザークは問い返す。 これは彼女の名前なのか、それとも部屋の名前なのか。 ここへ来いと言った以上は部屋の名前か。 納得し、イザークはそれを握りしめた。 「本番か……はあ。まさに本番に弱い、って思うよ」 「なんだ、まさにって」 「え?」 アスランが顔を上げ、イザークを見る。 困ったように視線を泳がせた。 「いや……だから。本番」 「そうか。まあ、戦場で失敗しなきゃいいさ」 イザークは頷く。アスランが不審な表情を浮かべた。 が、それをすぐに消し去る。ほうっと深い溜め息を吐いた。 並んで暫く無言で居ると、数人の女性が集まってきた。 イザークは表情を硬くして身構える。 「下にいた子たちじゃない」 体の線がくっきりと判る衣装に身を包んだ女達が、口々にそう言いながら集まってくる。 あちこちから手が伸ばされ、髪を撫でられる。頬に触れられる。腕や胸を撫でる者までいる。 イザークとアスランはかちんこちんに硬直して、されるがままになっていた。 豊かな胸が腕に触れる。口づけ出来そうな距離まで顔を近づけられ、イザークは心臓が壊れるのではないかと思うほど鼓動が速まっているのを感じた。 服の上からやわやわと細い指であちこち愛撫され、下腹部に血が集まって行くのを感じる。 イザークは赤くなって、女性達を押しのけた。 「あら、つれないのね」 女達が口々にイザークを甘く非難する。笑いを含んだような鼻にかかった声が卑猥だ。 アスランが慌ててついてくる。イザークは早足で歩いた。 それも、でたらめに。 館は思ったよりもずっと広く、同じような座敷と格子戸ばかりが続く。 何処に行っても、歓声や嬌声、女の甘酸っぱい体臭が消えない。 最悪だ。 イザークは泣きたくなりながらあちこちを歩き回った。 アスランと二人で闇雲に歩いていると、先ほどと同じようなバルコニーに出た。人気と女の匂いから解放され、イザークはずるずると座り込んだ。 アスランも同じように座り込む。背中合わせに座り込み、イザークは唸り声を上げた。 消え入りそうな声で続ける。 「帰りたい……」 と。 アスランがイザークの方に体重をかけてくる。 イザークはこぼれ落ちそうになった涙を指先で拭った。 アスランの体重がふっと消える。 髪に触れられ、イザークは乱暴に振り返った。 「脅かすつもりじゃ、ないんだけど」 アスランがぼそぼそと呟く。イザーク同様甘みの残る高めの声は、おどおどすると貧相に響く。 「イザークもこういうの、駄目なんだなと……思って。その」 「怖いわけじゃないぞ」 イザークは虚勢を張っている自覚を持ちながら、そう言う。 ふん、と鼻を鳴らした。 アスランが膝を突き、イザークの肩にもたれ掛かる。 「リーダー」 囁いた。 「首席はお前だろう」 「そうだけど。リーダーシップ取ってるのはイザークだから。その、リーダー」 「なんだ、しつこいぞ」 「ここ抜け出す、妙案とかないかな」 アスランが囁く。イザークは溜め息を吐いた。 「あるなら、お前なんて置いてとっくに逃げてる」 「そうか」 アスランが困り果てたように溜め息を吐く。 「後で隊長、首尾を聞きに来るって」 「何だと!?」 イザークはアスランの方を向き直る。アスランが頷いた。 「こういうのってある種セクシャルハラスメントなんじゃないかと思うよ」 溜め息に混ぜて愚痴る。イザークはぴしゃりと自分の額を叩いた。 「諦めて、一番話の通じそうな子を捜そう……かな……」 「それがいいだろうな。どうせ、逃げられないんだし」 イザークは深い深い溜め息を吐く。 プレッシャーで立ち上がれないくらい身体が重い。 何をどうしたらいいというのか。 「泣きたい……」 イザークは口の中でそう、小さく呟いた。 鳥居って *和泉さんのSEEDサイトはこちら*あの赤いのは女性器を象徴しているとか なんかそういう、嘘なのか本当なのかよくわからんことを 聞いたことがあるような。 きちんとアスランを書いたのは初めてでした。 すいません、こんなんで…… |
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