君の名は 




「マクドールさーん、迎えに来ました〜」

先日バナーの村で偶然にも同盟軍リーダーと知り合ってしまった・マクドールは、故あってこの軍に協力する事になった。協力するとはいっても、本来トランの人間であるが大っぴらに同盟軍に関わるわけにもいかない。だからリーダーのはこうして何かある度にトランまで足を運んでいた。

「不機嫌そうだね。戦いたくないわけ?」

と一緒に屋敷に入ってきたルックがの顔を見て言った。
の方はと言えば、ロクに返事もしないに変わってグレミオから厚い歓迎を受けているようだ。グレミオは何を誤解してかの『お友達』扱いしている。今日もしきりにゆっくりして行けと言われ、ついにはキッチンに引っ張られて行った。

「いや」

本当は戦いたくはない。けれどもこれもソウルイーターを持つ宿命かと思わずにはいられない。戦いでしかこの紋章が役に立つ事はないのだから。消えない以上、せいぜい有効に利用するしかない。

「そう?僕はこんなトコまでわざわざ連れて来られて迷惑だけどね」

ルックは相変わらず辛辣な口調で言った。慣れない者なら大層気に触るしゃべり方かもしれないが、幸か不幸かはトラン戦争の時にすっかり慣れてしまっている。

「なら何でそんな顔してるのさ?」

そう言うルックはよりもさらに不機嫌そうな顔をしているのだが、これはいつもの事なので今更問う気もしない。

「あ、マクドールさん。準備とか大丈夫ですか?」

1階でグレミオから食料をもらって来たが、それを抱えたままの私室へやってきた。

「あぁ。終わってるよ」

元より大した準備など必要ない。愛用の棍と、置いていきたくたって置いていけない右手の紋章。は行きましょう、と嬉しそうにの手を取った。

「掴まなくたってちゃんと行くよ」

はその手を振り解いて先に廊下へ出た。

「だってこの前はいつの間にか帰っちゃったじゃないですか」

はちょっと唇を尖らせた。先日勝手に帰った事を結構気にしているらしい。
とはいえ、その日の仕事はちゃんと終えて城に戻って来た所で自分の屋敷へ帰っただけなのだ。
が同盟軍の本拠地にいつまでもいる事はおかしいのだ。

「用が済むまではちゃんといるよ」

「お願いします。じゃ、ルックも行くよー」

ルックは気のない返事をしてついて来た。ルックの態度は3年前から大差ないが、それでもこんな所まできちんとついてくるのだから、このリーダーの事は少なからず気に入っているのだろう。
屋敷の外ではの知らない3人のメンバーが待っており、合流してバナーの森へと入った。相変わらず敵が多い。こんな森を抜けてまでわざわざ自分を迎えに来るの気が知れない。他のメンバーを見る限り強い奴がいないというわけでもないだろう。第一、見た目からはとてもそうは見えないこのホエホエしたリーダー自身も、実はかなり腕が立つのだ。


「じゃ、ちょっとメンバーを交代してきますね」

バナーの村についてきた連中はレベル上げのためだったのか、は城へ着くとを置いて酒場へと向かった。
はする事もなく城の様子を眺めた。この城は解放軍の城よりも立派であるのだが、どこかには馴染めないものを感じる。
について行かなかったのか、ルックが石版の方へ歩いていくのが目に入った。石版の前が定位置なのも相変わらずらしい。はすぐにビクトールやフリックと言ったおそらく主力のメンバーを引き連れて戻ってきた。

「よっ、

「元気そうだな」

気さくに声を掛けてくる二人とは挨拶を交わした。年は取ったもののこの二人も相変わらずだ。

「もう、ルックー。勝手に帰らないでよー」

は石版の方へ大声で呼びかけた。明らかに嫌そうなオーラを発しているものの、ルックはゆっくり近づいてくる。
相変わらずの光景。
見慣れているはずなのに、どこか、何かが違う。
自分だけが取り残されているような気分になるのは何故なのか。

「おっし、行くとするか」

ビクトールの声に一同はビッキーの方へと足を進めた。
だが、は動かなかった。

「マクドールさん」

立ち止まったままのに気がついてが声を掛けた。それでもは返事を返さないまま立ち尽くしていた。

「マクドールさん、マクドールさん?」

の正面まで回り込んで不安そうな瞳で顔を覗き込んだ。

「あの・・・具合悪いんですか?」

心配気に言うに首を振って答える。

「じゃあ、何かお気に触りましたか?」

「何で、僕はマクドールさんなの?」

「え?」

唐突な質問には困ったように首を傾げた。

「おいおい。ンな事で今揉めんなよな」

ビクトールやフリックもこちらの様子に気がついたらしい。
は別にこれが気になって立ち尽くしていたわけではないのだが、一端気になってしまった以上は答えが知りたい。

「何でって言われても・・・」

としてもそんな事を聞かれて困ってしまった。名前を間違っているはずはないし、正しい名前を呼んでいる以上理由を問われても困ってしまうのだ。

はマクドールの坊ちゃん扱いじゃ嫌だとさ」

「へ?」

当惑しているにフリックが助け舟を出した。そういえばグレミオがを坊ちゃんと呼んでいたのを思い出す。けれど、は別にそんなつもりで呼んでいたわけではない。

「マクドールさんはマクドールさんだし・・・扱いとか、そんなんじゃなくて」

「まぁの言い方も悪いな。素直に言やぁいいだろ。名前で呼んでくれって」

「なッ」

フリックの言葉には短く声をあげ、は目を丸くした。

「そ・・・そうなんですか?」

「別にそういう・・・」

そういうわけじゃない、と否定しかけては途中で言葉を切った。
自分でも気付いてはいなかったけれど、もしかしてこの軍に加わった時に感じるこの疎外感はそんな単純な事が原因なのかもしれない。

「じゃ・・・さん」

少し照れたようにが呼んだ。
いいですか、とわざわざ確認してくるは軽く頷いた。
他の多くの人からも呼ばれている名前なのに、思った以上に照れ臭い気がしてならない。

「年が近いんだから、さん付けの必要はねーんじゃねぇか?」

「えぇ!だって・・・」

「ま、そう言うなよ。にとっちゃ憧れのリーダーなんだから」

「憧れねぇ。まぁ俺にとっちゃどっちでもいいけどな。何でもいいからさっさと行ってぱっぱと済ませようぜ」

それもそうだとフリックが同意して二人は歩き出したが、後ろから急にがフリックのマントを掴んだ。

「あのっ、フリックさん達のフルネームって何ですか?」

フリックは驚いたようにビクトールと顔を見合わせ、それからの顔を見て微笑んだ。

「俺はと違って小さな村の出身だしな。フリック以外の名前で呼ばれたことないぜ」

「俺もそうだな。ま、コイツははさしずめ青雷のフリックだろ?」

「それなら君は熊のビクトールだね」

ビクトールの発言に対して、横から現れたルックが見事に口を挟んだ。

「ルック、テメェいい根性してるじゃねェか」

「褒めてもらえるとは光栄だね。大体、何をもたもたしてるのさ」

火花を散らし始めたビクトールとルックをフリックが宥め始めた。
随分月日が経った気がしていたけれど、基本的にはそう変わってはいないのかもしれない。
今も昔も、どこかで戦いが起こっている。
そして戦いの淵にあって尚、人々はたくましく生きているのだ。

さん」

揉め始めた年長者達に困惑の眼差しを向けるは肩を竦めてみせた。

「先行こうか、

名前を呼べばは嬉しそうに微笑んだ。
そして初めて気付いた。
も今、初めてその名前を呼んだ事に。










10000Hit記念駄文です。どの辺りが記念かってこう、初々しさが(爆)
そういえば、メンバーが5人しかいない。
この状況下で大人しく黙ってるんだからあと一人は・・・あ、きっとムクムクだ!
いや、寧ろムササビ集めに行くんじゃ・・・って主力メンバーとか書いてますよ。
しかも坊ちゃんまで呼んでムササビ狩・・・。





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