モラトリアム 





『男3人、女2人、子供1人、そういうお知り合いがいらっしゃいましたら・・・』(←ウロ覚え…汗)

このセリフを聞くのは何度目だろうか。
ヒューゴはそう思いながら仕方なくカレリアの宿屋の階段を下った。
本日のパーティメンバーは、ヒューゴ、パーシヴァル、ナッシュ、クィーン、ネイ、シャボン。
一体あの男は何が気に入らないというのだろう。
ヒューゴは首を捻りながら、ビュッテヒュッケ城へと戻るため手鏡を翳した。



他のメンバーには申し訳ないが、本日はあの男―ナディールに会うためだけにカレリアくんだりまで赴いていた。 城に戻るなり階段付近で早々に解散する。するとメンバーの一人であったナッシュがヒューゴに近づいてきた。

「また無駄足だったな」

「うん・・・」

色々とパーティを変えて行っているのに、いつもあの男は「残念・・・」、とかなんとか言ってヒューゴ達を追い返すのだ。
ヒューゴだって暇ではないのだから、いい加減仲間になって欲しい。ビッキーがいなかったらと思うと考えたくはない距離なのである。
何がいけないのか?
ヒューゴはまたうーんと腕を組んで考えて、そういえば、とナッシュの顔を見つめた。
ナッシュはいつもパーティに入っている、と今更ながら気付いたのだ。

「あの、ナッシュ」

「なんだ?」

「え、と・・・あの」

呼びかけたはいいが、何と言ったらよいものか。ヒューゴはなんでもない、と言ってその場を駆け出してしまった。後に残されたナッシュはその後ろ姿を見送り、不思議そうに首を傾げていた。




ヒューゴは赤毛の軍師に会うために広間の扉を開けた。
いつも眠そうな眼差しを向けるシーザーの顔は、おおよそ軍師とは思えないくらいにしまりのないものだが、彼の軍師としての能力は頼りにしている。
何かと忙しいらしい軍師に些細な事を聞くのは気が引けていたが、これ以上無駄足を踏むのは御免なので、ヒューゴは意見を求める事にした。

「シーザー、ちょっと相談があるんだけれど」

「・・・ん?」

忙しい軍師、といったが、シーザーは広間の壁に凭れて寛いでいた。これでも本人曰く『頭の中は考えている状態』なのだそうだから、肉体労働専門のヒューゴには全く想像がつかない。
まぁそれはとにかく、ヒューゴは自分の抱えている問題を切り出した。

「ナッシュって、実は女なんだろうか?」

「・・・は?」

シーザーは一瞬ぽかんとして、それからぷっと吹き出した。

「ヒューゴ、お前、いきなり何だってそんな事・・・」

「だって・・・」

おかしそうに声を上げて笑うシーザーを睨みながらヒューゴはカレリアの宿屋にいる謎の男について話した。
笑い事ではなく、ヒューゴは到って真剣なのである。

「ふーん」

「シーザーはどう思う?」

「俺はあのおっさんが女だとは思いたくないな」

ヒューゴは頷いた。ヒューゴとて女だと本気で思ってるわけではないし、できる事ならそうでなければいいとも思う。

「それにしてもなぁ、普通そう考えるかね」

「でも他には思いつくこともないし」

それでもナッシュが女だという考えには至らないだろう、普通は。
シーザーはぽりぽりと頭を掻きながら天井を仰いだ。

「ヒューゴ、もうひとつ忘れてるな」

「え?」

「いつも一緒にいたのはナッシュだけじゃない」

意味が分からなくてヒューゴは首を傾げた。
ヒューゴに少し考える時間を与えてからシーザーは徐に口を開いた。

「いつもパーティに入ってたのはヒューゴもだろ」

指摘されてヒューゴもようやくそのことに気付いた。

「でも、俺女じゃないし・・・」

シーザーはまた見当違いな事を言うヒューゴに苦笑しながら、子供って事だろ、と言った。

「俺は子供じゃない!」

ヒューゴは強く反発した。年頃の男というのは得てして子供呼ばわりされるのが大層嫌いなものだ。

「まぁ気持ちは分かるけどな。でもナッシュが子供ってのよりは在りうる話だ」

「そりゃ・・・そうだけど」

「まぁ騙されたと思って試してみるんだな」

まだ不満そうなヒューゴを尻目にシーザーはそう結論付けた。
それから、今日はナッシュを風呂にでも誘ってみな、と付け足した。




+++




風呂上り、である。
シーザーに言われたとおり本日はナッシュを誘って風呂に向かった。ナッシュは突然の誘いにちょっと意外そうな顔をしただけで、嫌がることなく一緒に風呂に入ってくれた。
結果は勿論――まぎれもなく男、である。
ほっとした反面、面白くもない。
ルシアやルースならとにかく、大して知りもしないあやしい男に子供扱いされているのかと思うとヒューゴは大変面白くなかった。
だが、シーザーにはああ言われてしまったし、自分では他に考えられる理由も思い浮かばない。
どうにか他に意見の聞けそうな人、と考えて広間にまだアップルが居るのではないかとヒューゴは思いついた。
どうせ自室へ戻るついでなのだから、と軽くドアをノックして広間の扉を開けた。

「アップルさん、いますか?」

ここは誰かの私室というわけではなく皆の広間な筈だから、遠慮なく開けてしまったのだけれど、返事も待たずに扉を開けてしまった事をヒューゴは後悔した。
部屋の中にいた人間は二人。
ヒューゴは中の様子に呆気に取られ、しばし立ち尽くしてしまっていた。

「シーザー・・・?」

ようやく口を開いて、ヒューゴは立っているシーザーと椅子に座って本を読んでいるアップルとへ交互に視線を向けた。この部屋に軍師である二人がいる事は少しもおかしくない。おかしくはないのだが・・・。

「アップルさん・・・?」

「え?あっ・・・ヒューゴ君?・・って、シーザー!」

アップルはヒューゴの呼びかけで我に返ったのか、背中にぴったりとへばり付いたシーザーに初めて気が付いたようだった。
そう、ヒューゴが入って来た時から、本を読んでいるアップルの背後にはシーザーがしっかりと抱きついていた。
アップルの方は嬉しそうでもないが嫌がってもおらず、淡々とページを捲っているのだから、ヒューゴが呆気に取られたのも無理はない。
そういう方面では歳よりも幼いと言われるものの、ヒューゴだってお年頃。まずい現場に遭遇してしまったのだろうかと一瞬思ってしまったのだが、アップルの方は全く気が付いていなかったようなのだから驚きである。

「アップルさん、あんまり集中して本を読まないほうがいいと思いますけど」

ヒューゴはシーザーをべりっと引き剥がすアップルを見ながらそう言った。

「そうね。でも、あーだこーだと話しかけてきて煩いんですもの。シーザーの事は意識から抹消する事にしてたのよ」

「だってアップルさんが構ってくれないから」

アップルはそう言うシーザーを軽く睨みつけた。ヒューゴは扉も開けっ放しで立ち尽くしていた事に気が付き、後ろ手でそれを閉めると部屋の奥へと進んだ。

「アップルさんはいいんですか?」

「え?」

「シーザーに抱きつかれても平気なんですか?」

「なっ・・・よくじゃないわよ、全然。でも些細な事を気にしてもしょうがないの」

果たしてそれが『些細な事』なのかと少し悩む所なのだが、ヒューゴは話の腰を折らずに黙って聞いた。

「シーザーのする事を逐一気にしてお小言を言っていたら、私の一日はそれだけで終わっちゃうのよ。だから自由時間くらいはゆっくり休む事にしているの。気にしなくても平気かって言われたら平気ではないんだけれど、でもね、気にしない方が疲れずに済む事だって世の中にはたくさんあるのよ」

アップルは諭すようにヒューゴに言いかけたが、ヒューゴにはいまいち理解の出来ない話だった。

「『大人』だな〜、アップルさんは」

からかうように言ったシーザーがアップルに耳を引っ張られるのを見ながら、さっきのアレはゆっくりしてたのかぁ、とヒューゴは感心していた。

「自分の部屋の方がゆっくりできるんじゃないんですか?」

「一人ならね」

問いかけたヒューゴにアップルは溜息交じりの返事を返した。大幅に仲間が増えた今、ヒューゴの把握できない人間関係がいっぱい存在すると思い知らされた気分だ。
色々と大変ですね、とヒューゴは心から同情の声を漏らした。

「にしても、アップルさんって鈍すぎて心配だな」

シーザーの声にヒューゴも頷いた。
いくら意識から抹消と言ったって、あんな事されて気付かないアップルはどうかと思う。

「もう、シーザーがいつもしつこいせいなのよ!」

「慣れって怖ろしいね、アップルさん」

「シーザー!全く、何を考えてるのかさっぱり理解できないわ」

「アップルさんもよくわからないけど・・・・」

シーザーに向かって怒りを顕にしているアップルの耳には、幸いにもヒューゴの小さな声は届かなかった。

「まぁまぁ。そう怒らない」

「怒らせているのは誰ですか!」

「人のせいにするのはよくないって」

シーザーの言葉は火に油を注いだようで、アップルは声を荒げた。
元はといえば自分が入ってきたせいでこうなってしまったのだと思い出してヒューゴは嘆息した。逆に言えば、自分さえ入らなければあれで静かな時が流れていたというのだから不思議である。ヒューゴから見ればシーザーの行動もアップルの行動も全く理解し難いものだった。

「えと。じゃぁ、俺はこれで」

ヒューゴはこれ以上関わらない方が懸命だと悟り静かに部屋を退出した。

「そういえばヒューゴ君、何の用だったのかしら・・・?」

「・・・さぁ?」

しばらく言い争った後、ヒューゴが出て行った扉を見つめながらアップルとシーザーは首を傾げていた。







「『大人』は些細な事は気にしないのか・・・」

呟いたヒューゴの言葉が静まり返った廊下に響いた。
戦いが始まった事によって、国や民族によって考え方が随分異なるという事を知り始めたヒューゴであるが、今日もまた何かを知ってしまった気がする。

ヒューゴは自分を子供だと思ってはいない。
カラヤにいた頃は子供扱いされる事は屈辱的でしかなく、早く大人と認められたくて仕方なかったのだ。 しかし今、大人であるという事が必ずしも喜ばしい事でもないような気がし始めている。 何より、炎の英雄として皆に認めてもらえている現在、大人か子供かなどという事はどうでもいいような気がしてきた。アップルに言わせればそんな定義付けはそれこそ『些細な事』として一蹴されるのだろう。
それに、今は寧ろどちらにも属せるこの身に少し安堵さえ覚えるヒューゴなのであった。
そう思う事自体、彼が大人へと一歩前進しているという事に、ヒューゴが気付くのはまだ少し先なのだけれど。




翌日、ヒューゴは『子供』の位置に収まり、カレリアの町へと向かったのだった。











プレイ中の出来事より。
私は何度もパーティを変えてナディールの所に行きましたがいつも追い返されてたんです〜。 ヒューゴを大人と思っていたわけではないけれど、なんか子供ってものすごく子供じゃないといけない気がしてたのですよね〜。
そういえばグリンヒルの学生選ぶ時にも色々疑問に思いましたっけ。
後半が無意味にシザアプなのは気にしないで下さい。趣味に走りました。
あのニブっぷりアップルはどうかと思うけど、偽者だと思って勘弁してやって下さいませ。





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