コンコンと軽く扉が叩かれる音がして、デスクに着いていたパーシバルは顔を上げた。扉の方へ目を遣り、鍵が掛かっていることに気が付くと自ら扉を開けに行く。 「何の用だ」 扉の向こうに居たのは予想外の人物でパーシバルは僅かに眉を顰めた。 「あなたの役の台本です」 はい、と突然セシリアはパーシバルの胸に薄い冊子を押し付けた。 「役?」 「嫌ですわ、ちゃんとお知らせはしましたのに。それともご自分には無関係だと思ってましたか?」 パーシバル自身は多忙ゆえ会議に参加していなかったが、親善パーティについての資料は配布されていた。そういえば部下達が演劇がどうとかも言っていたな、と記憶を辿る。 言われた通り、パーシバルは思いっきり無関係だろうと思っていた。が、目の前の人物にはなぜかそれを言えず私に演技など出来ると思ってるのか、とだけ答えた。 「これは国の未来が掛かっている大切なイベントなのです。ご安心下さい、将軍にはステキな役が当選しました。将軍は顔だけでも持ちますから、あまり役作りも必要ありませんわね」 普段から無愛想だの何だのと言われているというのに役作りも何もあったものでない。そもそも劇をやるなどパーシバルの想像の範疇を超えている。 「とりあえず近日中にセリフを覚えて下さい。随時合わせの練習が入りますから」 「・・・セシリア」 「あ、台本をお渡しするのは基本的に役に就いた方だけなんです。この劇の準備は一切秘密裏に行われますから、将軍が何の役であるかなど劇に関しては一切他言しないで下さい」 王宮を挙げてのイベントなのに何故秘密裏にするんだ、とパーシバルは呆れたようにため息を吐く。 「何故そんな面倒なことを」 「当日は出来るだけ多くの方に楽しんで頂こうと、ミルディン陛下直々のご命令ですのよ」 「何?」 「陛下はとても期待していらっしゃいます。ご自分も出れればいいのにとまで仰ってましたわ。とにかく、やって頂けますわよね」 「すまないが私は忙しい」 「生憎皆さん忙しいのですわ」 「他を当たれ」 「仕方ありませんね。では、国王命令にでもしてもらいましょうか?」 「ああ?」 「よろしいですねv」 にっこりと微笑むセシリアは黒い気を身に纏っており、結局ミルディンもこの魔道軍将も楽しんでいるだけだと思うとパーシバルは頭痛を禁じえなかった。 さて、賢明な皆様はご存じだろうが、Romeo&Juliettoとは互いに憎みあう二つの家に生まれた男女が愛し合ってしまうという悲劇の物語である。 パーシバルは幸か不幸かその整った顔故に、主人公ロミオの座を獲得してしまっていた。尤もエトルリアにはこの物語は浸透しているはずも無いので、『ロミオ(悲劇の青年・主人公)』と書かれた登場人物表のみを見て、様々な妄想を抱いた多くの女性の票によって獲得したのである。 パーシバルはセシリアの置いていった台本を軽く読み流して大きく息をついた。 物語そのものに不満があるわけではないが、これを自分がやるとなると問題は別である。そしてセシリアの脚色によってラブシーンはかなり濃密になっていた。 ふざけた事にパーシバルに練習の時刻と場所を告げたのは、何処からか飛んできた矢文だった。間違って怪我でもしたらどうするつもりだ、と思いつつも辺りに打った人物を探し出す事も出来ずパーシバルは舌打ちをした。 そしてパーシバルの不安をよそに練習は始まった。 指定の場所へ行くと室内には数人が集まっていた。 「あれっ?」 パーシバルはその中に良く見知った部下の目を見開いた顔を発見した。 「何をそんなに驚いている」 「いえ。パーシバル将軍でもこういった事に参加なさるんですね」 「軍務だそうだからな。軍人であれば避けることはできまい」 真面目にそういうパーシバルがおかしくて彼はクスリと笑った。 「しかし最初の練習がおまえと一緒なのはやりやすいな」 「私はまだセリフも心許ないので、お手柔らかに頼みます」 彼はぺこりと頭を下げると、自分の台本に視線を落として真剣な眼差しで睨み始めた。 「ところで、お前他の出演者を知っているか?」 「・・・え?はい?」 余程熱心に読み込んでいたのだろう。彼はパーシバルの問いかけに曖昧に応じた。 「あ、すみません。出演者って他言無用ですから、一緒に練習した人にしか分からないと思います。 私は今日が始めての練習なんでまだ全然分かりません。」 「そうか」 「台本も自分出るシーンしかもらえないし、全部の内容が分からないなんてちょっとどうかと思いますよね、感情移入も出来ないじゃないですか」 「ああ・・・」 はなから感情移入などするつもりのないパージバルにとってはどうでも言い事なので曖昧に応じる。というよりそんな自分に限って、何故か全ての幕の台本を与えられていた。パーシバルは私も覚えることが多くてかなわん、と告げると彼から離れて部屋の中を見渡した。 どうやら秘密主義は徹底しているらしい。だが自分は共演者なのだから知る権利がある。 パーシバルが知っておきたいのは無論彼の恋人、ジュリエット役の人物である。 パーシバルが台本を読んだ限り、自分の役はやたらと恋人との絡みが多い。せめて恋人役の人間くらいは知りたいと思うのもそう責められた事でもないだろう。 「はい、皆さん集まって頂けたようですね」 しばらくしてセシリアが現れ、一同はその周りに集まり始めた。 「じゃあ、本日は冒頭のシーンから読みこんでみましょうか」 台本に沿って台詞読みが始められた。 なにぶん素人ばかりなのだから棒読みもいいところであったが、セシリアの厳しい指示が入っていき練習が終わる頃には僅かながら良くなりつつあった。 「将軍、ロミオ役だったんですね」 先程の部下が意気揚々としてパーシバルの隣にやってきた。 「生憎な」 「なんだか俄然、ヤル気が出てきました!」 そう言って意気込む彼を横目に見ながら、一向に気が乗らないパーシバルは重い気分で部屋へ戻るのだった。 まだ、練習は始まったばかり。 という事で続きです。
パーシバル受難編。別に大した受難には遭ってないのですが。 取り敢えず役を貰えました。 頑張って練習していただきたいと思います。 セシリアがキャラ壊れている気がしますが、まだまだです。 |
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