供の領分





もう、大分疲れてきた。

「何でそんなにイライラしてんだ」

先程から休むことなく、ずんずんとハイペースで進んでいく少年の背中に後ろから声が掛かった。
困ったような、呆れたような声。
きっともう少年のこんな姿にも慣れてしまったのだろう。声をかけた青年は返事がない事に足を止めて肩を竦めただけだった。

「おい、待てよ。レイ」

そのまま置いていかれそうになって青年は慌てて少年に呼びかけた。

「オレは急いで町へ行きたいだけだ」

レイと呼ばれた少年は足を止めて振り返った。呼びかけた青年の顔へおおよそ子供らしくない視線を向け、わずかにその目が細められる。

「もう年か?」

一瞬レイの浮かべた意地の悪い笑みに思考を奪われ、けれどその青年―ヒュウはすぐに言われた内容に気がついて顔に血を昇らせた。

「なっ、何言ってんだ!」

行くぞ、と言い捨ててヒュウもどかどかと足を進めた。二人は万事こんなやり取りをしながら進んでいる。ヒュウだって相手がこんな子供でもなければ年呼ばわりされる程の年齢ではない。
つまりはこいつがガキのせいだ、と思いながらも、それでも実質レイの望むとおりにスピードを上げてしまうのがヒュウの悲しい性であった。


レイとヒュウが一緒に旅をするようになってまだ日は浅い。
レイが勝手に付いて来た、というのはヒュウの言い分だが、なにかと物騒なこの世界で孤児のレイが一人で旅をしているという事が心配だったのも確かだ。結局のところ、ヒュウは持ち前の面倒見の良さ故レイと同行している。と言うより、レイとヒュウはその面倒見のよさをレイにうまく利用されている気がしているのだが。何しろ相手は、いたいけな子供というにはあまりにかけ離れた性格の持ち主だった。よく見れば顔立ちはかわいらしいが辛辣な言葉を吐くし、態度も大きい。
そしてレイは何故か、古代魔法を求めていた。
そもそもヒュウがレイといる一番の理由はそれなのだ。



+++



町に着いたのは予定よりも早く、二人は一通り街を散策した後宿を探した。
屋根の下で眠れるのは久々でヒュウは上機嫌だった。しかしため息をついて横を歩くレイにはいつもの元気(というか横柄な態度)が見られない。何かを考えているかのように黙り込んでいた。街から戻ってからこんな調子だ。結局この街には闇魔法を使えるような者も、闇魔法に詳しい者もいなかった。

「ま、そんなにがっかりすんな。こんな小さい町じゃ仕方ないだろ」

ヒュウが言葉をかけても冷たい視線が向けられるだけだった。

「孤児院のベッドみたいだ」

狭い宿の部屋でごろんとベッドに横たわりレイは呟いた。安宿の粗末なベッドはヒュウには狭すぎたが、孤児院育ちのレイには懐かしさも覚える物らしい。

「どうした、ホームシックか?」
「馬鹿言え」

レイらしい口調にヒュウは苦笑した。

「だろうな。おまえなら死んでも戻る気なさそうだ。今更戻りたいなんてないよな」
「今更も何もない。始めから戻る気だ」

ヒュウはへ?、と間抜けな声を上げた。孤児院を抜け出して来たというから、きっとそこの連中と折り合いが悪かったのだろうと思っていた。レイのこの性格なら仕方なかろうとも思ったのだが。

「へえー。おまえでも育った所は懐かしいか」
「別にそんなんじゃない。忘れ物を取りに行くだけだ」
「忘れ物?」
「だからいつか必ず戻る」
「へぇ、大事なモンなんかないと思ってたがな。でもそんなに大事ならすぐ戻ればいいだろ」
「それは出来ない。闇魔道を極めないと」
「なんだそりゃ」

軽く視線で続きを促したが、レイはそれ以上言うつもりはないらしく、それ切り口を閉ざした。
短い付き合いだからそれも仕方がない。が、ヒュウには是非とも聞いておきたい疑問があった。

「なぁ。なんでそんなに闇魔法にこだわるんだ」
「あんたには関係ない」

素気無く言い捨てられたが、理魔法だっていいじゃないか、とヒュウが口に出すとレイはチロリと視線を上げた。

「ダメだ」
「なんで?」
「理魔法じゃ足りない」
「足りないって何が?強さなら光魔法でもいいだろうが」

なぜレイはわざわざこの道を選ぶのか。
関係ないと言われても闇魔道の道を諦めかけているヒュウにとってはどうしても気になる事だった。

「確かに始めはなんでも良かった。光だろうが闇だろうが、もっと言えば剣だろうが強くなれればそれでよかった」
「なら・・」
「だが古代魔法について書かれた本を読んでから、気持ちが変わった。今は全てを知りたいと思っている」

レイの表情はとても真剣で子供とは思えない程に大人びて見えた。

「簡単な道じゃないぞ」
「なら、簡単な道はあるのか?」

言われてヒュウは閉口した。確かにどんな道でも極めるのは容易ではない。

「それで、強くなってどうする」
「どうって、強くなければ生きられない」

レイはきっぱりと言った。

「そりゃそうだが、おまえならそんなに急がなくてもなんとかなるだろ」

ヒュウからすればレイは異様なほど急いでいた。もっともヒュウがのんびりしすぎな感もあるのでどっちもどっちだが。

「あの辺はあまり治安がよくないんだ」
「あの辺?」

孤児院だ、とレイは告げた。

「ったく。勝手に出てきたくせに」
「うるさいな」

ヒュウの言葉に答えるとレイは小さく舌打ちした。

「あーあ。あんたからは闇魔法の匂いがしたと思ったのにな」

レイはぼそりと呟いて大げさに肩を落としてみせた。初めて会った時に仄かに感じた闇の気配。
だがヒュウはマージだった。魔力には自信もあったのだが、こんな具合では自分もまだまだだと思わずにはいられない。はぁ、と大きくため息を吐いた。気持ちばかりが先走り空回りしている。
そんなレイの様子を見つめてヒュウはがしがしと頭を掻いた。

「実はな、オレも一応闇魔道の修行をしてだんた」
「・・嘘つけ」
「そりゃぁ素質がないせいか頑張ってもさっぱりだったから、今は理魔法に切りかえたけどな。もともとは闇魔道の修行をしてたんだよ」

呆気に取られているレイを横目にヒュウはすっと立ち上がった。

「仕方ねぇな。とっときのモンを見せてやるよ」

特別だ、と言ってヒュウは自分の荷物をごそごそとやり何かを取り出した。

「リザイアだ」
「え!?」

突然の事にレイは驚いてがばりとベッドから飛び起きた。

「俺がばぁちゃんから借りた闇の魔道書だ。ま、割と貴重らしい」
「リザイア・・・これが」

ゆっくりとヒュウの方へ近づくとレイはいつになく目を輝かせた。普段はとんでもなくデカイ態度なので忘れがちだが、、こういう顔をすれば少年らしくも見える。

「俺にくれないか」

そっと魔導書に触れるとレイは真剣な眼差しでヒュウを見上げた。
「馬鹿言うな。言っただろ、これは俺のばあちゃんのものだからな。勝手にやったりしたら俺が怒られちまう」
「でもあんたは使えないじゃないか」

うっ、と言葉に詰まったヒュウだが、こんなことで流されるわけにはいかない。
何しろこの魔道書はヒュウにとっても大事なものだ。

「駄目だ」
「ケチ」
「何とでも言え。見せてやっただけでも感謝して欲しいくらいだ」

ヒュウはさっとリザイアを取るとさっさと荷物へしまった。

「でも、おまえでも施設に恩を感じてるわけか。ちゃぁんと人並みの感情があったんだな。一応安心したな」
「何が安心だ。それに孤児院が心配なわけじゃない」

レイはふんと唇を尖らせた。

「忘れ物が心配なのか」

レイはそれには答えず無言で自分のベッドへ戻って行った。

「あいつはオレが必ず迎えに行く・・」

再び横になって呟かれた声は小さかったがヒュウは聞き漏らさなかった。
あいつ、と言ったか。

「・・・そういうことか」

ヒュウは一人で納得すると自分も固いベッドへ身を投げた。

「意外だな」

何がだ、とレイからは不機嫌そうな声が返った。ヒュウとしては、この倣岸不遜な子供が誰かかを迎えに行くなど想像し難いのだが、それを言ったらこの少年はきっと顔を顰めるのだろう。

「なぁ」

不意にヒュウは悪戯を思いついたような顔で尋ねた。この無愛想な少年をちょっとからかってやろうと思いついたからだ。

「その子、美人か?」
「あぁ?」」

レイは何のことかわからず一瞬戸惑ったが、すぐにヒュウの意図した"その子"の意味に気づいた。どうやらヒュウは勘違いしたらしい。そして、院長にはかわいいって言われてたな、とさらりと言ってのけた。

「まぁオレが言うのはちょっと問題がある気もするけど」

問題というのはこの場合レイとほぼ同じ造りをしていると言う事だが、無論ヒュウがそんなことに気が付く術はない。

「へぇへぇ、羨ましいこった」

からかうつもりが惚気られて半ばヤケクソに言った。ヒュウとしては嫌味を込めて言ってみたつもりのこの台詞にも、レイはそうだろと自然に返した。
気がつけばレイは先程までの固い表情が消え、小憎らしい面構えに戻っている。
全くこのガキは、とヒュウは嘆息して薄い毛布に潜り込んだ。
こういう場合は寝てしまうに限る。
結局のところ、ヒュウは口でレイには 勝てる気はしないのだった。


子供のくせに妙に大人びて、褪めた目をしているくせにその実情熱的で。
この小さな存在は比較的子供受けしやすいと自負していたヒュウを見事に翻弄してくれていた。
きっと明日も早くから旅立つだろう。
そしてヒュウは なんだかんだ言って、明日もまたこの小生意気なガキに振り回されるのだろうか。
ヒュウはそんな風に想像して、こんな生活に慣れ始めている自分を悲しく思いつつ眠りにつくのだった。









ヒュウ&レイ旅日記。
あれ、どうしてこうなったんだか 。
うちのプレイではヒュウに支援会話をつけられなかったので、ネットで見ているうちにこんな風になってました。
カップリング話でもなんでもなく、意味不明なお話なのでした。
未だ口調が良くわかってないので、変だと気がついたら直すことにします。
気がついた方はご指摘ください。






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