と息子





『私には妻も子もいない。そう決めたのだ。お前もそのつもりでいろ…』



真 夜中に呼び出された。
相手は先日、最早父でも息子でもないと宣言したセティだ。
絶縁宣言以降、やはりというか当然というべきか彼はレヴィンを避け続けていたのでこの呼び出しで久々にセティと向き合う。
母や妹を想う純粋な息子を傷つけたことはレヴィンとしても心が痛まないわけでもないが、フォルセティとして生き残った以上これも仕方がない事と思っている。だが、いくらしっかりしているとはいえまだ若いセティが納得できないことも理解できる。
セティが言いたい事があるのは必至だった。

「何の用だ?」
レヴィンの声は意図せずきついものになり、無意識に緊張していたのを自覚する。セティもそれに気付いてか、わずかに口の端を歪めて笑んでみせた。
「そんなに牽制しないで下さい。今日はこれを渡そうと思っただけです」
セティはそう言うと手にしていた包みをレヴィンに差し出した。
「開けるのか?」
「ご自由に」
セティの口調は落ちついており、どうやらこの間の話をするために呼んだのではなく、自分の心配は杞憂であったとレヴィンはホッとした。
見た目よりもかなり軽い包みをかさかさと音を立てて開く。

………!

先程の安堵も束の間。
中身を見た瞬間にピシッと音を立てて罅が入り、レヴィンの思考は凍り付いた。
「え………と」
僅かの沈黙の間に自分を取り戻すと、解放軍の軍師であるレヴィンは常日頃の冷静さをなんとか保ちつつ、けれど内心はひどく動揺しながら自分の手の中の包みをしっかりと確認する。
「どういうつもりだ?」
何度見直しても変わらぬ物体をしげしげと見つめながら、溜息と共に眼前の緑の髪の青年に尋ねる。
「プレゼントですよ。私から、あなたへの」
にっこりと微笑みを携えておきながら、それでも彼の背後に吹きすさぶブリザードを感じるのはレヴィンの気のせいではあるまい。
やはり、セティは一戦交える気なのだ。やはり先日相当に怒らせた息子といきなり自然に話せると思ったのは甘すぎたのだ。
端から見れば友好的とも見えるプレゼント。だが問題は、この中身。
レヴィンは息子に顔を向けたると視線だけを包みに下ろしてもう一度溜息をつく。
包み一杯に詰め込まれたかなりの量の、プレゼント。
「それで、コレは何だ?」
「避妊具ですよ」
躊躇いもなくきっぱりと言い切り、まさか知らないなんて言わないですよね、とセティは静かに微笑んだ。
レヴィンも今は俗世と拘わりを絶っている身とはいえ元は妻子持ち。無論これを知らないわけではない。
だがしかし、問題はそういう事ではない。
「……これは何のつもりかと聞いている」
「わかりませんか?」
小さいが良く通る声は確実に無数の棘を持ってレヴィンの耳に届く。
「貴方が何処でどう生きようが、何処で誰と何しようが、それは貴方の人生なんですから私に口出しする権利なんて全然ありません。ですけれども、これ以上私達に皺寄せがくるのは御免被りたいので、こちらとしては出来得る限りの回避策を、と思ったわけです。貴方だって面倒事は困るでしょうから、利害の一致と言うことで受け取って頂けませんか」
どうぞ、と一層微笑みを強めた。どうやら想像以上に怒りは深そうだ。
「お前は勘違いをしている」
相手の冷気に気圧されてかレヴィンの口調はいつもより弱くなる。
「何がです?」
「私には妻も子もないとは言ったが、それは別に他に遊びたいからとかそういった理由じゃなく…」
「言い訳は見苦しいですよ」
レヴィンの態度からすれば確かに言い訳と取られても仕方がないセリフは、セティによりすっぱりと切り捨てられた。
ビヨォォォォーと言う風の音まで聞こえるようになったと思うのはレヴィンの気のせいだろうか。
「セティ…あのな」
「配給品でも余り物でもなく貴重な私物をお譲りするんですから。有効に使って下さい」
レヴィンにその後の弁解の隙すら与えずセティはそれではと言って踵を返した。
レヴィンは私物って何だ…?と心の中で突っ込んだが、すぐに我に帰り自分の発言が遮られたことを思い出す。
「ま、待て」
「…何です?」
「勘違いだ。せめて話くらいは聞け」
いかにも鬱陶しそうに振り向いた息子はしかし次の瞬間ふわりと微笑んだ。その事にレヴィンは寧ろ悪寒を覚える。
「人生なんて勘違いの産物ですよ。私達は所詮『他人』なんですから、細かいことはどうだって良いじゃないですか」
セティは言いたいことを言うとレヴィンを残してさっさとその場から消えた。
言い返せなかったレヴィンは呆然と立ち尽くして遣りきれない敗北を感じていた。



――――勘違い。

背中にまだ微かに残る寒気を感じながら、確かにレヴィンも息子に対してとんでもない勘違いをしていた事に漸く気付く。
今一度セティから受け取った彼の私物を見つめ、彼を味方に付けなかったことは後々後悔するかも知れないと本能で感じた。











シレジアらしく寒い出来になりました。
レヴィン×セティとして書き始めたとはとても思えないレヴィンvsセティ。
最早軌道修正は不可能と思われます。セティ様、壊れてますが別物と思って勘弁して下さい。
そしてレヴィン。思ったより弱くなってしまいました。リベンジなるか。

 


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