んのちょっとジェラシー





暖かい日差し。
心地よい木漏れ日の下で彼女はぼんやりと宙を見つめながら座っていた。
ふぅ、と溜息1つ付いて幹に凭れかかる。
そうしてじっと雲の流れを追っていたら、空に黒い影が現れた。

「ティニー」

ばさばさという羽音と伴に降り立ったのはフィーのペガサスだった。

「どうしたの?こんな所に一人で」

いくらティニーは魔法が使えるのだといっても軍を離れて一人でいるのは感心したことではない。
フィーは元気良くペガサスから飛び降りるとティニーの横にやってきた。

「ちょっと考えていたんです」

「…何を?」

フィーは隣に腰を下ろすとさりげなく尋ねた。
軍に入ったばかりのティニーはがまだ馴染めていないのかも知れないと考えたのだ。
フィーだってこうして話すのはまだ数えるほどだった。

「兄様のことを」

ティニーの言葉に銀髪の男の顔が浮かんだ。

「…アーサー?何かあったの?」

ティニーは慌てて首を横に振る。フィーの顔が険しくなったからだ。

「そう。まぁティニーにはいい兄貴でしょうけどね。でもホンットにアーサーってば…」

フィーは思い出したかのようにアーサーの文句を言い始めた。
どうやらまたケンカみたい、とティニーは考えた。
何かあったのはフィーの方だったのだ。

「羨ましいです」

文句を言うフィーの姿に儚げな笑みを浮かて、ポツリとティニーが呟いたのをフィーは聞き漏らさなかった。

「どこが!」

「だって兄様は私にはちっとも…私といるときはいつも優しくて…」

「―で、それのどこが羨ましいのよ。ティニーってば分かってないんだから」

羨ましいのはこっちよ、と言ってフィーははぁっと息を付いた。
会って早々目に入れても痛くないと言う言葉がぴったりなほどにアーサーは妹を溺愛している。
この兄妹の再会までの経緯を考えるとフィーとて文句は言いたくないのだが。

「アーサーもアーサーよ!人の気もちっとも知らないで」

叫んだフィーにティニーはきょとんと目を丸くした。

「あの…もしかして兄様の事…」

「え!?やだティニー、何言ってるのよっ!」

「…でも」

「あいつは最高の相棒なんだから。最高の」

フィーは慌てて立ち上がると身体に付いた草を払いのける仕草をした。

「私はもう行かなきゃ。ティニーも早く戻るのよ」

さっとペガサスに乗るフィーを眺めその後ろ姿を見送ると、ティーはまたぼぅーっと空を眺めた。


フィーはきっと兄様が好きなのだ。
自分はあまり鋭い方ではないけれど、何となく分かった。
フィーは明るくいい子だ。そして何より。

最高の相棒

兄様もそう言っていた。
その言葉をティニーも笑って聞いていたけれど。今それが少し淋しいと思うのはホント。

フィーが羨ましいと言ったら、兄様は呆れてしまうかしら。

壊れ物のように大事にしてくれるけれど、それじゃ淋しいと言ったら。

困惑する兄の顔を想像してティニーはクスリと笑った。
困らせたくはない。
困らせたくはないけれど、わかってくれるだろうか。


生まれて初めての、ほんのちょっとのジェラシー。










不思議ですね。例えどんなに幸せでも人は羨ましくなるものです。
そんなわけでテーマはジェラシー。
ティニーにはあんまり似合わないです。だからほんのちょっとだけ。
そしてこの時のアーサーはというと、ティニーを必死で探してるわけです。

 


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