はこの手をすり抜けて -おまけ-





 かくして無事エルトシャンは天に召された。

「行ったな…」

 エルトシャンは限界が来たと言っていたが、ラケシスを残した事への未練が解消されつつあったのだろう。これでようやく落ちついて過ごせるとキュアンはホッと息をついた。
 あの友人にはもう本当に会えないのだと思うと寂しさも覚えるのだが。

「エルト…」

 小さく呟いた瞬間、背後でカタンと音がして振り返った。

「もう限界だわ」

 背後にはいつの間にかエスリンが立っていて、彼女からは得も言われぬオーラが散乱していた。
 どうしてか、とんでもなく怒っているらしい。
 キュアンは慌てて理由を探すが特に心当たりもない。

「どうしたんだ?」
「どうしたですって?そりゃぁ、あなただって寂しいのは解る、解るけどっ!!」

 お転婆だがいつもは可愛らしい妻が珍しくピンクの髪を振り乱して叫んでいる。
 エスリンは深呼吸を一つするとテーブルの上のグラスを取って一気に飲み干した。

「だから、何があったんだ?」
「自覚がないなら教えてあげる」

 ただならぬ雰囲気に悪い予感がした。

「キュアンったら、毎晩のように寝言でエルトシャン様の名前を呼んでるのよ!!」

 キュアンの目の前が暗転した。
 それは一体どういうことなのかしら、というエスリンの声に頭痛がしてくる。
 一体何と言ったらいいものか。本当のことを言ったとしてもこの剣幕では信じてもらうのは難しいだろう。
 エスリンはと言うと、返答に詰まっているキュアンの様子に更なる不信感を募らせ始めている。ふと エスリンにもフィンとラケシスのことを教えないといけないと思い浮かんだが、今はそんなことよりこの状況を何とかする方が先のようだった。
 

 キュアンの安息の日々はまだちょっと遠いらしい。





 
† END †



おまけです。
最初は本編にくっついてたんですけど、アホな内容なので読みたくない人は読まなくてもすむように別にしました。
ここまで読んで下さった方は本当にありがとうございます。






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