「はぁ…」 フィンは何度めかの溜息を吐いた。 朝から数分置きに出る溜息は本人には無自覚のようだが、普段は人一倍訓練に熱心なフィンだから、周りはおかしいと思い始めている。 フィンは夕べのことが気になっていた。嬉しい日だと言っていたのに、急に悲しそうな顔をして帰ってしまったラケシスを思い出す。自分は何か気に障ることをしてしまったのだ。だが、それがどうしても思い当たらず悩んでいる。 「フィン」 キュアンに呼ばれたのは、朝の訓練が終わった後だった。 「何を悩んでいる?」 「ええと…実は人を怒らせてしまったようなんですけど、それでずっと原因を考えているんですが全然分からなくて」 「ラケシスの事か?」 適切に言い当てられて、フィンは目を丸くして動揺を見せた。 「どうして…キュアン様が?」 「そんなことはいい。お前が怒らせたのか?」 キュアンの中では最早常識となってしまっていたが、本来フィンとラケシスが親しいということすらなかなか気付ける事ではない。キュアンはうっかりと失念していたのだが、幸いにもフィンは大した疑問を抱かなかった。 「多分そうです」 キュアンは頭の中でエルトシャンにそうなのかと尋ねた。 エルトシャンは今日は指令を出すといってラケシスの元ではなくキュアンに付いている。 『知らんな。少なくともラケシスは怒ってないぞ』 「どうしてそう思う?」 「あの…昨日私と話をしていて、それまで笑っていたのに、突然急に態度を変えてしまって。何か傷つけるようなことを言ったかと考えてはいるのですが、これといって思い当たらず・・・」 『馬鹿が。誤解をしている』 キュアンはエルトシャンの言葉に棘を感じて嘆息した。だが、とりあえずは事態を理解できた。 「それは何か誤解があったのかもしれないぞ」 「でも…」 「そうだ、悩むより実際に話した方が早い」 「そうですね。後でちゃんと話しに行きます」 フィンはキュアンの言葉に納得した様子だ。が、後でってのはなんだとエルトシャンが唸った。 「今行ってきたらどうだ?」 「まだ仕事ががあります」 真面目な顔で答えるフィンを見て苦笑を浮かべるとキュアンはその肩を叩いた。 「…お前が普段から真面目なのは認める。だから、今すぐ行ってこい」 「あの…」 「俺が許す。それとも言い方を変えるか?」 「?」 「今すぐ行け」 フィンは頭を下げてありがとうございますと言って駆けて行った。 『本格的に馬鹿だな』 エルトシャンはそう呟くと、おまえも早く追いかけろとキュアンに指令を出した。 ラケシスは自室にいたが、訪れたのがフィンだと分かると扉を開けることはしなかった。 仕方なくフィンはドアの前で話をすることにする。 「怒ってらっしゃるんですか?」 「どうして私が怒るのよ!」 中からはどうしたって怒っているとしか思えない声が聞こえる。 「お茶の途中で帰られてしまったし、それに、怒っていないのならどうして開けて下さらないんです?」 「貴方が、怒ってるんでしょう?」 「何故です?」 「夕べは、ごめんなさい!」 謝っているんだか、文句を言ってるのか理解に苦しむ口調でラケシスは唐突に謝罪した。 「無理矢理槍を習いたいと言ったのに親切に教えてもらって、おかげでマスターナイトにもなれたというのに、夕べはお礼も言わず急に帰ってしまって。私はいつもあなたに迷惑をかけてばかりだわ」 「・・・昨日の事ならもう私は気にしてませんから、出て来てくれませんか?」 このまま怒鳴り合うのは恥ずかしいですから、とフィンが言うとドアが静かに開いた。 「呆れてるでしょう」 「そんなことはないです。ラケシス様が怒ってないと分かって安心しました」 フィンはドアから気まずそうに少し顔を出すラケシスに微笑みかけた。 「貴方って…本当に…」 その態度に毒気を抜かれてラケシスはゆっくりと扉から身体を出した。 「昨日は何が気に障ったんですか?」 「何も気に障ってないわ。だからごめんなさい」 ラケシスはぺこりと頭を下げる。その様子を眺めてからフィンは大きく息をついた。 「よかった…。昨夜からラケシス様を怒らせしまった事をずっと気にしていました。もう槍の稽古も必要ないし、どうやって許して頂こうかと思っていたのです」 急に押し掛けて失礼しました、とフィンは頭を下げた。 そう、もうフィンに槍を教わる事はないのだ。 そして出陣してしまえば、一緒にお茶を飲むこともなくなる。 では仕事がありますから、とフィンが背を向けた刹那ラケシスははっと我に返った。 「違ったわ。…貴方の態度よ」 既に歩き出したフィンの背中に思わず声をぶつけた。 突然の言葉の意味が掴めずに振り返ったフィンに、昨日の理由、と告げる。 「無礼をしましたか?」 フィンはすみませんと謝ったがそれ以上は何も言わず再び背を向けた。 その態度にラケシスの心にますます火が付いていく。 夕べからずっと悩んでたと言ったくせに、ラケシスへの態度はあまりにそっけないように感じる。 「私の事なんてどうでもいいなら、機嫌伺いになんて来ないで」 思ったよりも大声で叫んでしまった事に慌てたが、開き直ってフィンを見据えた。 「どうでもいいだなんて、そんな事はないです」 「嘘よ!だったら昨日、なんで・・・」 「あの、昨日何かしましたか?」 フィンが困ったような表情で浮かべた。どうせ遠回しに言っても無駄だと踏んでラケシスは思い切って息を吸い込む。 「貴方が笑うから」 「…は?」 「頻繁に会えない事、私は寂しいと思ったのに、貴方は全然平気そうなんだもの!」 ラケシスはそう言い切ると勢い良く扉を閉めた。ドアからはがちゃりと施錠の音が聞こえた。 「ええ、と…」 廊下に残されたフィンは扉を見つめたまま呆然としていた。 「事態が悪化したぞ。どうなるんだ」 『俺が知るか』 物影からひっそりと見つめるキュアン(とエルトシャン)の姿は怪しいものがあったが、幸運にも目撃者はいなかった。 『何とかしないとな。俺はそろそろ限界のようだ』 「わかるのか?」 『あぁ。なんとなくだが、近頃ふと消えそうになる』 「まだ未練があってもダメなのか。時間制なんだな」 感心したようなキュアンに呆れながら、エルトシャンはちょっと出ると告げてラケシスの部屋へと入って行った。
最初に考えたプロットから外れました。
どうやら真面目にフィンラケをやるつもりようです。ボケ倒すつもりだったのに。 ここらでまとまるか筈なのにラケシスが何故か怒り始めました。 どうなるんだ、は私の心セリフです。 |
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