っしょ。





ラクチェは闇の中で一人天井を見つめていた。
ベッドの中で目を閉じても一向に寝付けない。ここ数日ずっとこんな調子だ。昼間の戦いで体は十分に疲れている筈なのに精神が落ちつかない。
相部屋のラナは病人達の世話で今は別室にいたから、話相手もなくただひたすら闇を見つめて過ごした。

『 危ない!』

そう叫んで駆けつけたセリス。

『 深追いするな。囲まれてるぞ』

シャナンの声。
昼間の戦闘の情景がぐるぐるとラクチェの頭の中で回った。
たまらない程の焦燥感が駆り立てられる。

「ああもう!!」

ラクチェは鬱々とした気分を吹き飛ばそうと思い、愛用の剣を掴むと夜着のまま部屋を出た。
―強くならねば
その思いは夜毎強くなりラクチェに焦燥感を与える。
ラクチェは屋上に出るとがむしゃらに剣を振るった。そうでもしなければとても落ちつけなかった。
はっと気が付くとずいぶんと時間が経ったのだろう。腕には既に痺れが来ていた。
こんな寝巻姿で何をしているのだろう、と半ば自嘲的に笑うと、ラクチェはゆっくりと部屋へ戻ろうとした。
しかし少し離れた所に佇んでいる人影を見つけて、ふとその足が止まる。

「スカ…サハ?…何してるの?」

辺りは暗くともラクチェにはそれが双子の兄であると分かった。
屋上の片隅で彼は茫洋と月を見上げていた。

「それはこっちのセリフだ」

ラクチェはスカサハの方へ歩み寄るとその隣にすとんと腰を下ろした。

「お前が屋上に行くのが見えたんだ。こんな時間にどうしたんだ?」

隣に座る妹にいつもの元気がないように思えてスカサハは心配げに尋ねた。

「ちょっと剣を振りたくなったの」
「体力有り余ってるな」
「ちょっ、そんなわけないでしょ」

ラクチェが唇を尖らせると、スカサハは冗談だと笑った。

「…眠れないのか?」
「んー、そんなトコかな」
「どうした。話してくれても良いだろ」
「なんでもないわよ。何となく…」
「何となく…なに?」

繰り返すとスカサハはふわりと微笑んだ。
スカサハはいつもそうだった。おおよそ戦士とは思えないほどの妙におっとりしているところがある。
だからつい、気を許してしまうのだ。

「強くなりたいの…」
「…ラクチェは強いだろ」

俯いて言うラクチェにスカサハが呆れたような声で答えた。

「足りないのよ!まだ、こんなんじゃ皆を守るなんてできない!」
「ラクチェ…」
「強くならなきゃって、そう考えたら眠れなくて」

ここの所ラクチェがぼうっとしている時があるのは寝不足のせいか、とスカサハは納得した。
それにしてもラクチェがそれ程までに悩んでいるなんて。

「でも寝不足じゃかえって逆効果だろ」
「…!分かってるけど…」
「じゃぁ、もう寝るぞ」
「…そんな簡単に寝られたら苦労しないわよ」

スカサハは困ったように首を捻ったが、ぐっとラクチェの手を引いて立ち上がった。



そのまま手を引いて部屋に戻されたラクチェは強引にベッドに押し込められた。

「俺がここにいるから、安心して寝ていいぞ」
「スカサハ……」

ラクチェは呆れて溜息を漏らす。

「スカサハがいたって安心なんかできないわよ」
「うるさいな。こういうのは精神的問題だからいいんだ」

訳の分からないことを言ってスカサハは明かりを消した。

「おやすみ」
「…おやすみ」

ラクチェは仕方なく瞳を閉じた。スカサハが側の椅子に腰掛けると部屋は静寂に包まれる。
長い静寂。

「…ね、起きてる」
「…んん」

スカサハは間の抜けた声を上げた。
寝付くまでいてくれるつもりらしか
ったが自分が寝てどうする、とラクチェは呆れた。

「馬鹿。そんな所で寝ないでよ。ちょっとこっちに来なさい」
「…はぁ」

完全に眠そうなスカサハがそれでもゆっくりラクチェの方に近づいた。
その手を引いてラクチェはぐいと自分のベッドの中へと引きずり込んだ。

「え?ラ、ラクチェ!」
「もう!風邪ひくでしょ」

風邪なんか、と言おうとしたスカサハだが布団の中の暖かさに思わず言葉を飲み込んだ。

「ひゃ、冷たい」

ずっと屋上にいたせいかスカサハの体は冷え切っていたようだ。剣を振るっていたラクチェに対して、スカサハはずっとそれを見ていただけだったから。

「誰かさんが長いこと外にいるから」
「ずっと見てたんなら、呼べば良かったじゃない!」
「…まぁ、そうだな」
「…馬鹿ね」

だがそうしないところがなんともスカサハらしいと思えた。

「懐かしいな」

ふとスカサハが呟いた。ラクチェの、自分よりも少し高めの体温が伝わってくる。

「昔はよく一緒に寝てたものね」
「あぁ、よく蹴っ飛ばされたっけ」
「もう!」

言いながら、ラクチェの足は布団の中でスカサハの足を軽く蹴飛ばす。

「言ってる側から…」
「うるさいわね!早く寝なさいよっ」

ラクチェが叫ぶと二人は話しを止め目を閉じた。
だが、妙に落ちつかない。
切り出したのはスカサハだった。

「…何か今更一緒に寝るってゆーのはなんか緊張する、よな」
「そ、そうね」

ラクチェの方もそれに同意すると、なにやら気まずい雰囲気になった。
椅子で寝られるのは困るが、何も布団に引き込むことはなかったと後悔する。
そしてスカサハも寝ぼけ気味だったとはいえ素直に布団に入ってしまったことに今更ながら動揺していた。
部屋は薄暗くて目を開けてもお互いの表情が見えないのは有り難い。

「あのさ。お前は強いよ」
「急にどうしたのよ」
「本当だって、皆お前を恐れてるくらい…」

言い終わらないうちに、げしっ、とラクチェの蹴りが入る。

「悪かったわね。どうせ」
「…っだから。急がなくたってお前はもっと強くなれるよ。流星剣も俺より先にマスターしたぐらいだし。お前一人で焦らなくったって大丈夫なんだ」

スカサハの真面目な声にラクチェも蹴るのをやめて大人しくした。

「スカサハ…」
「皆で一緒に強くなってけばいい」
「私…みんなに置いて行かれそうな気がしたの」

急に常になくしおらしい声でラクチェが話し出すのをスカサハは意外な気持ちで聞いた。

「ラクチェが…?剣の腕じゃずば抜けてるだろ」
「剣ではね。でも戦いの中で皆変わっていくでしょ。だから、私一人取り残されそうな気がしてた。私は戦うことくらいしかできないから…」

確かに、セリスを含めティルナノグの仲間たちは強くなり、精神的にも皆大人びてきていた。未だ戦うことしか頭にないラクチェがそれに引け目を感じたとしても無理はない。

「それでも、俺がいるだろ」
「え…」
「俺はおまえを置いていかないよ」
「何よそれ」
「だって俺たちは双子なんだから。生まれたときから、ずっと一緒だろ」
「…だからってこれからもそうとは限らないでしょ」
「いーや、これからだってそうだ」

スカサハはラクチェの方へ身体を向けるとその手を掴んだ。
一人じゃない、と。
まだ冷たいその手からスカサハの気持ちが伝わって来るような気がして、ラクチェはその手をぎゅっと握り返す。

「……スカサハなんかに合わせてたら遅すぎるわよ」
「オマエね…」

ラクチェ口からはいつもの悪態しか出てこないけれど、本当はとても嬉しい。

「なんか言い返しなさいよ。お人好し」
「いいから。今日はもう早く寝ろって!」

スカサハのもう片方の手がラクチェの顔を覆い瞼を閉じさせる。
言い返さないのはスカサハの戦術だ。口で勝てるわけないのだから。

「やめてよ。ちゃんと寝るんだから」

手を払いのけるとラクチェはくるりとスカサハから顔を背けた。

「じゃ、今度こそおやすみ」
「おやすみ」

二人とも瞳を閉じた。
不思議と ラクチェから先程までの焦燥感は消えていた。
そう。一人で焦ることはなかったのだ。
今までそうだったようにこれからもずっと私達は『一緒』なのだから。
強くなろう。
この片割れ共に生きていく為に。

「…ありがと」

ぼそりとラクチェが告げた時には、スカサハは既にもう夢の中へと落ちていた。




繋がれた手はまだそのままで。









何が言いたいのだろうか自分、という感じ。
単に双子好きなだけでした。
改装につき少し直しましたが良くはなってません…。

 




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